アベノミクスへの悲観論
どのような政権の政策でも、それを好意的に受け止める勢力と、それを批判的に見る勢力がある。国民の支持率が高いとはいっても、アベノミクスを批判的に見る人たちも少なくない。
安倍内閣の発足当時は、大胆な金融政策に対する批判の声を多く聞いた。「あまりに乱暴な金融緩和策を行えば、日本は深刻なインフレになって大変なことになる」「政府が大量に国債を購入することは、財政規律を損なうことになる。近い将来、国債価格の暴落が心配だ」「金融緩和策だけでデフレを脱却しようとすれば、物価が上がるだけで国民の生活はけっしてよくならない。悪性のインフレよりもデフレのほうがまだましだ」「金融緩和で一時的に株価や為替レートを動かしても、それは持続的な経済回復にはつながらない。半年もすれば日本経済は失速するだろう」…。
以上、今年の初めごろによく聞こえてきた、アベノミクスへのいくつかの批判を列挙してみた。今でもこうした主張を続けている人がいないわけではない。ただ、最近はこうした批判がめっきりと減った。アベノミクスがスタートしてからもう少しで1年。日本経済の回復ぶりは多くの人が想定した以上に順調なものである。当初聞かれたアベノミクス批判は影が薄れてしまったのだ。
ただ、批判勢力は常に次の批判の種を求めるものだ。最近は、第一の矢よりも、第三の矢への批判が多くなってきた。次のような批判だ。
「アベノミクスは、成長戦略で求められている大胆な改革ができずにいる。これでは、金融緩和政策の効力が薄れてきたら日本経済は失速する」「大胆な金融緩和は日本銀行さえ動かせば実現可能であり、政治的に比較的容易な政策だ。しかし、成長戦略は改革の抵抗勢力を押さえ込む必要があるだけに、政治的に難しい政策だ。安倍内閣がこの難しい改革で成果を出すのは難しい」…。
安倍内閣の成長戦略は着実に前進しているのか、それとも大胆な改革ができずにいるのか。今の時点で結論を出すのは早いような気がする。TPPの交渉参加や減反政策の見直しなど、これまでの政権ではできなかった大きな改革が進んでいることも事実だ。ただ、そうした改革は、どの国でやっても時間がかかるものである。その改革のスピードが速いと見るか遅いと見るかは、主観の問題でもあるだろう。