長野県建設業厚生年金基金で事務長が、24億円もの巨額資金を着服した疑いで逮捕された。マスコミでは事務長の豪遊ぶりばかりが報道されているが、それが問題の本質ではない。なぜ「総合型」の厚生年金基金で次々と問題が発生するのか。本稿では、企業年金、特に総合型年金基金の運営上、加入者に対する善管注意義務や忠実義務がおざなりにされ、その利益が損なわれている現状を検証する。読者のみなさんも自ら加入する厚生年金基金の運営体制のチェックに役立てていただきたい。
だれも責任を負わない「総無責任化」
11月14日、長野県建設業厚生年金基金(以下「長野基金」)で使途不明となっている約24億円を着服した疑いが強い、同基金の元事務長(56)がタイ市内で不法滞在の疑いで逮捕され、その後長野県警に逮捕された。週刊誌などでは同事務長の銀座や海外での豪遊ぶりが取り上げられて大きな関心を集めているが、それは本質的な問題ではない。
同基金では、この使途不明金とは別に資産の大半を消失させたAIJ投資顧問に約65億円を委託していた。長野基金は約380社、6400人の加入員を擁する大きな基金であるが、AIJでの損失に加えて、今回の使途不明金の損失が確定すれば、加入企業にとっては大きな痛手となる。というのは、後ほど説明するように、長野基金は「総合型」基金であり、国から預かった厚生年金資金の代行部分を割り込んだ場合は、最終的には加入企業が連帯して穴埋めする義務を負うからだ。
この事案を通して明らかになったのは、厚生年金基金、特に総合型年金基金運営の杜撰さと、誰も責任を負わない「総無責任化」の現状である。長野基金では、こうした現状に憂いを抱く加盟企業の1社が脱退を求めたが代議員会で認められず、長野地裁で争い、昨年の1審では脱退が認められたが、引き続き係争中である。このように、加盟企業は、無責任な厚年基金運営の被害者であるばかりか、被害の最小化の道筋さえ閉ざされているのだ。
別の事件であるが、本年6月28日には、北海道石油業厚生年金基金理事長が、投資顧問会社からの収賄の疑いで逮捕されている。この基金も380社が加盟する総合型年金基金であり、同じくAIJ事件で損失を被った。その結果、加盟企業の負担において来春解散することになっている。