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スマートフォンの理想と現実

消費者は通信サービスに何を期待しているか
通信事業者に求められる「市場の再定義」

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第56回】 2013年12月11日
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 NTTドコモは「ABCが保有する料理教室や料理関連コンテンツなどのアセットとドコモが保有するモバイルやクラウド技術などのノウハウを融合させ、リアルとデジタルを連携させた新たなサービス開発やドコモとABCの顧客基盤の相互連携を推進」するとのコメントを出している。

 だが、多くの消費者から見て、通信事業者であるNTTドコモと、料理教室であるABCクッキングスタジオとの相乗効果は、分かりやすいものではない。前述のコメントも、ぼんやりしていると「ああ、そう」といった気分になるが、一字一句を丹念に読んでみると、いま一つ論旨が分からない。

 今回に限らず、NTTドコモのM&Aに関しては、これまでも若干の疑問符が示されてきた。例えば、2012年6月のタワーレコード、2012年3月のらでぃっしゅぼーや、さらにさかのぼること2009年4月のオークローンマーケティングなど。

 いずれも現時点では、効果がなかなか見えない。NTTドコモショップの店頭にいけば、らでぃっしゅぼーやのパンフレットが置かれていたりもするが、それを相乗効果と呼ぶのであれば、コンビニ等はそのお化けである。ということは、NTTドコモは将来「コンビニ」になろうとしているのだろうか。

 長期的な視野に立てば、彼らが異業種連携を進めたいと考えるのも、もちろんわかる。単なる通信サービスからプラットフォーム事業への進出により「脱・土管化」を図ろうとするという戦略は、一つの見識ではある。

 ただ、そうした彼らの思惑を理解できるのは、通信業界の動向や構造を見ている産業アナリストのような人たち、だけのような気もする。私自身もその端くれだけに、「ああ、そう」と言いそうになるが、消費者の目線で考えてみれば、やはりよく分からない。

 あるいはそうしたプロの目線からも、疑問は拭えないのかもしれない。たとえばコンビニは、これまで相当の試行錯誤を繰り返し、M&Aだけでなく(時には取引先からの批判を受けるほどの)自社中心の企業努力を、長年重ねてきた。そうした苦渋をなめてでも業態を変えようとする覚悟が、現在のNTTドコモのM&Aからは、まだ見えにくい。

 それに比べるとソフトバンクのM&A戦略は、一般消費者にも一見わかりやすい。米国の通信事業者スプリントの買収等は、スケールメリットやそれをテコにした新たな事業展開を目指すのだろうし、イーモバイルの買収は、彼らに足りなかった周波数という経営資源の調達で、通信環境の改善を目指したいのだろう。言葉を置き換えれば、子どもにも説明できそうだ。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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