EVは次世代環境対応車の
本命となり得るのか?
連載第3回では、世界的な経済危機によって顕著になった「不確実性」に飲み込まれた自動車業界の現状を、詳しく紹介した。多くの企業は「戦略のパラドックス」に陥り、経営戦略の大転換を迫られている。
では、「ポスト・リーマンショック」の現在、自動車業界はいったいどこへ向かおうとしているのだろうか。今回は、そのキーワードとなるエコカー、とりわけHV(ハイブリッド車)の「次の本命」として注目を浴び始めた「EV」(電気自動車)の将来像に焦点を当てながら、業界の方向性を分析してみよう。
金融不況後の自動車業界においては、消費者の環境意識の高まりや化石燃料依存からの脱却を目指すエネルギー政策、米国のグリーン・ニューディール政策に代表される産業政策などが注目を浴びている。
そのトレンドを背景に、最近EV(電気自動車)やpHV(プラグインハイブリッド車)の市場導入・参入に関するリリースが相次いでいる。
すでに三菱自動車の「i-MiEV」や富士重工業の「スバル・プラグイン ステラ」が日本市場へ投入され、中国の新興自動車向け二次電池メーカー・比亜迪汽車(BYD Auto)は、世界初となるpHV「F3DM」の市場投入を行なった。
またGMは、再建の切り札として2011年にもフル充電時の最大航続距離が40マイル(約64km)のpHV「シボレー・ボルト」を導入する予定であり、日産自動車は2010年後半に日米欧市場に投入するEV「リーフ」を新本社ビルのお披露目と合わせて発表した。
ただ、近年環境対応車の主役となっているHV(ハイブリッド車)と比較すると、EVは完全なゼロエミッション車である点では優位にあるものの、自動車業界の主役の座を奪うには程遠い状況にあると言えるだろう。バッテリーコストに起因する価格面や航続距離の制約、充電インフラの整備状況といった課題を抱えているからだ。
それにもかかわらず、各社が「次世代の本命」としてEVの普及に躍起になるのは、何故だろうか。
一方で、現在HV(ハイブリッド車)で環境対応車市場を牽引するトヨタ自動車やホンダ(本田技研工業)のEV市場開拓に対する姿勢は、前出のメーカーと比較すると慎重に映る。
実はここに、EV普及が自動車業界に対して与えるインパクトの大きさを図りかねる各社の戸惑いが、見え隠れする。