円安は輸入価格を上昇させるので、これがどう負担されるかは大きな問題である。

 転嫁がどの程度なされたか、負担はどの程度増えたか等に関する定量的な把握が必要だ。以下では、これについての分析を行なうこととする。

円安の収支計算

 2012年10月から13年9月までの輸入額は77.0兆円、輸出額は67.1兆円だ。

 為替レートは、12年10月の1ドル=79.8円から13年9月の98.2円まで円安になった(18.7%の減価)。仮に79.8円のままなら、輸入額は77.0×(79.8/98.2)=62.6兆円になっていただろう。だから、円安による増加分は14.4兆円と評価される。(1)

 他方、輸出は54.5兆円になっていたはずだから、円安による増加分は12.6兆円だ。(2)

 ここで、輸入額のほうが約10兆円多いので、増加額には約2兆円の差があることに注意が必要だ。

 では、輸入の増加分は、誰が負担するか?最終財に転嫁された分を計算しよう。

 12年10-12月期から13年7-9月期までの1年間の各需要項目の合計額は、下記のとおりだ。

 ・民間最終消費支出は、290.9兆円

 ・投資支出は、民間住宅が14.8兆円、民間企業設備が64.3兆円、公的固定資本形成(公共投資)が22.4兆円。合計で101.5兆円だ。

 民間最終消費支出については、消費者物価指数で評価する。全国の総合指数は、12年10月の99.6から13年9月の100.6まで、1.0%上昇した。これによる民間最終消費支出の増加額は、290.9×1%=2.91兆円だ。(3)

 投資支出については、企業物価指数のうちの資本財の価格指数で評価する。この指数は、12年10月の97.0から13年9月の98.5まで、1.5%上昇した。

 これによる投資支出の増加額は、101.5兆円×1.5%=1.52兆円だ。(4)

 したがって、輸入額の増加のうち転嫁された分は、(3)(4)の合計である4.43兆円である。(5)

(なお、原理的には輸出への転嫁もありうるが、ここではないものとする。)

 残り、14.4-4.4=10兆円が企業負担になっているはずだ。(6)

 結局、企業の1年間の利益増は、(2)(6)から、2.6兆円だ。(7)