仮説構築のスピードと質を高める方法

 そういう時には、「今考えておられる課題・問題点の仮説に対して、取りうる解決案を三つあげてください。それらのメリット、デメリットを書きあげてだいたい目星をつけてから情報収集を始めると、アクション指向で素早く進めることができますよ」とお答えしている。

 あるいは、「情報収集しなくても、どうすべきか本当はある程度想像できていますよね」と聞くと、「そうですよね。なんとなくですが、ある程度は進むべき方向がわかっているように思います」と言われることのほうが多い。そういうチャレンジを受けないと、まず情報収集をしようとする。判断を先延ばししようとする。いやな判断を先延ばしにするために情報収集を延々と続けるのではないかと思われるほどだ。

 私が知っている限り、ある程度の経験を積んだ現場の方々は、何が問題でどうすべきなのか、おぼろげにでもイメージをお持ちだ。しかし、それを具体化する訓練を十分にはしていないので、どうしたらいいかわからない、まずは情報収集しないといけないと思いこんでいるだけか、上司の叱責や嫌みを恐れて意見を言わず、情報収集を継続するという安全策を採っているだけだ。特に大企業であればスタッフ組織が強く、突っ込みが各所から無数に入ってくるし、揚げ足取りも多いので、過剰に情報収集してしまうことになる。

 右に行くべきか左に行くべきか、それを素早く決めるために何を知らないといけないのか、普段からアンテナを立てていれば、実はそれほどむずかしいことではない。まともな人、つまり大多数の人にとってだいたいの勘は働くからだ。足を引っ張るのは、過去のトラウマ体験、上司の叱責、組織の階層の多さによる効率低下、官僚主義からくる形式重視やビジネスからの乖離などだ。

 もちろん、今あるだけの情報で仮説を立て、方針を出すにはコツがいる。自分への追い込みも必要だ。「もっと情報がほしい、今のままだと不完全だ」と言いたい気持ちをこらえて、大胆に仮説を出す癖をつけることだ。それだけで、仮説構築のスピードと質は劇的に高まる。

 むずかしそうだが、本当にやらなければならないことに素早く取り組むという達成感、進捗感から、ストレスはむしろ小さくなる。

 先延ばしにしようとする気持ちは誰にでもあり誘惑も多いが、間違いなく前倒しのほうがずっとよい。早く対処できれば手遅れになる前に対処できる。早めに着手すれば改善もしやすい。情報収集を重視して結果として手遅れになるよりはよほどよいという気持ちが鍵だ。

 注意すべきは、人によっては、スピード重視という名のもとに、調査不足でもまったく調べず、専門家に聞きもせず、アンテナも立てず、無防備に動いてしまうことがあることだ。「素早く情報収集をし、全体像を考え、代替案を立案し、比較検討し、決定後は強力に推進する」といった基本動作を無視して、限られた情報や自分の好み・過去の経験則によって決めつけたまま動こうとする。これは非常に危険だ。仮説はあくまでも仮説にすぎず、確認もしていない。程度問題ではあるものの、出した仮説の根幹だけはすぐ確認、検証しておく必要がある。