メモ書きの効能
彼は、最初に「どんな指導を自分だったら受けたいか?」というタイトルを思い浮かべ、6行書いた。いたってまともな内容だ。
・ 自分の課題を明確にしてほしい
・ 自分の課題に対して具体的な行動指導をしてほしい
・ フィードバックして、何が良くなっているのか明確にしてほしい
・ 良い、悪いをはっきり伝えてほしい
・ やる気を持たせてほしい
・ 自分でもできるかもと自信を持たせるフィードバックがほしい
この内容には特に文句のつけようがない。指導のあり方について非常に的確な理解をしている。
しかし彼は、自分がなぜすぐ部下を怒鳴りつけるのか、なぜそれを自分でも止められないのか、あまりわかっていなかった。ところが、この「どんな指導を自分だったら受けたいか?」というメモを始めとして10数枚書くことで、「怒鳴りつけることが自分のコミュニケーションの手段になってしまっていた。怒鳴ることで部下を萎縮させ、自分も非常に気分が悪くなり、結局いいことは何もないということまで百も承知なのに、自分をコントロールしなかった、コントロールできなかった」ということへの気づきが生まれた。
これ以外に彼が同時に書いたメモのタイトルは、
・ 自分はどんな指導者になりたいか?
・ 自分が怒鳴られたらどんな気持ちになるか?
・ 怒鳴られた相手の気持ちは?
・ 自分はどんな時に怒鳴りたくなるのか?
・ 怒鳴りちらした後、何を感じるか?
・ 感情的爆発とは何か?
・ 誰に対して怒鳴ることが多いか?
・ 誰に対して怒鳴らないか?
などで、それぞれに深い内容が書かれていた。こういったアプローチにより、これらのメモを書き始めて10分程度で、彼は長年悩んでいた自分自身のコントロールしがたい癖について深い理解を得ることができた。誰も言ってくれなかった、相談もできなかった、自分でもどうしたらよいかわからなかった自分の行動の理由に初めて気づき、改善の大きな一歩になったという。
「メモ書き」は、1ページを1分以内、毎日10ページ書く。時間はわずか10分だ。費用はかからず、頭や感情の整理に即効性がある。上記の営業リーダーのように、行動上の課題を解決し、スタイルまで変更することができる。
メモ書きを3週間から1ヵ月続けると、頭にどんどん言葉が浮かぶようになる。メモに書くよりも早く、言葉が湧いてくる。1ヵ月前にはもやもやとしていたものが、言葉が明確に浮かび、アイデアが続々と出てくるようになる。頭の速さに手の動きがついていけず、もどかしく思いながらアウトプットし続けることになる。
さらに数ヵ月続けると、瞬間的に全体像が見えるようになり、「ゼロ秒思考」に近づいていく。ものによっては、瞬間的に問題点が見え、課題が整理でき、答えが見えてくる。この変化には、性別、年齢、経験を問わない。
著書の『ゼロ秒思考』では、「考えるためのヒント」とともに、その「メモ書き」の具体的な方法を解説した。メモのフォーマットから保存の方法、メモを元に企画書をまとめる方法まで、私自身が何万枚と書き、1000人を超える人に実践してもらったことで得たノウハウをすべて詰め込んである。ぜひご参照のうえ、「メモ書き」を実践していただきたいと思う。
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