パッとしなかった宮城産のカキが
いまや広島産にも負けない味に

 宮城産のカキ、と聞いても、あまりピンとこないかもしれない。広島産や北海道の厚岸などと比べて『おいしい』という評判はあまり聞かない。飲食業界での評判がいいのは圧倒的に北海道産、あるいは岩手県産だった。

 ところで、気になっていた数字があった。東京都衛生研究所が調査したカキの成分分析表である。それによると旨味であるグリコーゲンの量は広島産が10.90gともっとも高く、コクのもととなる脂肪の量も4.04gとトップだった。翻って最低を記録していたのが宮城産のカキである。グリコーゲンの量は3.70gと約3分の1程度、脂肪の量も1.72gと半分以下だ。宮城県産のカキはかわりに水分量がもっとも多かった。旨味が少なく、水分量が多いということは、そういうカキの味は『しょっぱくて薄い』。つまり『おいしくない』という結論になるのだ。(『牡蠣 その知識と調理の実際』柴田書店 荒川好満・山崎妙子 1977年)

 もっともこの調査は1970年代に行われたものであることは留意しておく必要がある。だから今、評判のいい北海道産のデータも欠けている。というわけで、今のデータが欲しいと思って、色々と調べたのだが、産地別の比較はなぜか見あたらなかった。

 2012年の2月と2013年の11月と2回に渡って、僕は様々な養殖家のカキを食べ比べたのだが『おいしくない』という印象は受けなかった。いや、むしろ『おいしかった』のだ。他の産地に決して劣っているわけではないのだ。

「たしかに昔よりもカキの生育が良くなった気がします」

 とはあるカキ生産者が話してくれたことだ。

収穫されたカキは殻付きで出荷されるほか、このように剥き場で次々とむき身にされる。殻剥きは手作業のため人出が必要でこれまで冬期の雇用の受け皿にもなってきた(写真は奥松島水産)

「それは震災で生産者が減ったからだと思います。それまではたくさんの養殖家がいい場所を奪い合うみたいにして、カキを育てていたんです。共同で出荷する場合には単純に量で収入が決まります。そうするとやっぱり生産者としては増やしたくなるので」

 なるほど三陸沖は2011年に発生した東日本大震災によって甚大な被害を受けた。カキ養殖には設備投資がかかり、カキが成長するのを1年~3年待って出荷しなければいけないため、再開にこぎつけられない業者もいた。

 極端な話、カキは海に沈めておけば勝手に育つ(実際にはそれではいいカキはつくれないのだが、それについては後述する)。無餌給養殖という方式だが、そのため海中のプランクトン量と生産するカキの割合が重要になる。

 震災前の状況を『漁業と震災』という著書のなかで濱田武士氏がこう分析している。バブル崩壊以後円高傾向が続いたことで輸入圧が強くなった結果、『カキについては、養殖業者が徐々に減り、残った経営体が空いた漁場を使って生産量については維持あるいは拡大に繋がった』(『漁業と震災』岩波書店 p36)