新型インフルエンザ大流行による被害は
「世界同時多発無差別テロ」のようなもの

 05年11月、厚生労働省は新型インフルエンザの大流行を想定した行動計画を発表しました。WHOの「新型インフルエンザ パンデミック警戒フェイズ」の1~6に合わせ、新型インフルエンザ発生前後を6つの段階に分けて、それぞれのフェイズごとに取るべき対策を公表したのです。余談になりますが、かつて筆者が編集に携わっていた「週刊ダイヤモンド」も、その行動計画に倣って対応策を協議し、「フェイズ3(ヒトが感染した例が出現)」に向けた非常時のマニュアルを作成しました。もっとも「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の諺どおり、鳥インフル騒ぎが収束してからというもの、対応策ファイルは一度も見直されず、筆者のパソコンの中で静かに眠っています。

 新型インフルエンザはほとんどの人が免疫を持っていないため、誰もが感染する恐れがあります。そしてひとたび発生すると容易に感染し、多くの人が発症・重症化すると見られています。「小説」では国内第一号患者が発生します。そして、発生からわずか13日後。厚労省はついに「フェイズ6(蔓延期)」を宣言せざるをえなくなります。

2ヶ月の間に120万人の人間が亡くなった現実は、知人や親戚、家族の誰かに犠牲者が出たことでもあった。元気であった人が、新型インフルエンザに罹って亡くなっていく、自分も家族もいつ、この伝染病に罹るのかわからない。明日のことが知れない不安に苛まれる。今まで、日常の生活に死を意識することの希薄だった日本人であったが、その死生観に大きな変化をもたらした。死は、遠いものではない。いつやって来ても、不思議ではない。そんな風潮が流れ始めていた。(272ページ)

 本書は07年9月に初版が発行されました。著者の岡田晴恵氏は当時、国立感染症研究所研究員でした(現在は白鷗大学教授)。「いたずらに不安を煽っている」といった批判もありましたが、具体的な準備がほとんど進んでいないわが国で新型インフルエンザが流行すればまさにこうなりうるストーリーをシミュレーションとして書いたのだと、著者はあとがきで断っています。では、新型インフルエンザ大流行による膨大な健康被害と二次的な社会・経済活動の崩壊を防ぐにはどうすればよいか。

新型インフルエンザ対策は、基本的にはすべての危機管理問題と共通するものである。しかし、過去の教訓から、新型インフルエンザ大流行は、地球全体で同時に起こり、1回の流行の波は少なくとも2ヶ月間は続くと考えられる。従って、この間には他の地域や国からの支援はほとんど期待できない。これが大地震、津波、噴火爆発、台風、ハリケーンなどの自然災害や局地紛争などと大きく異なる点である。あえて例えるならば、特大規模の世界同時多発無差別テロにも相当する事態であろう。ここにも、新型インフルエンザ大流行に対する危機管理に関わる準備と対応の重要性と難しさが存在する。(284ページ)

 上海で発生した鳥インフルエンザの被害が拡大しないことを、ただひたすらに祈りたい。本書を再読してそんな気持ちになりました。


◇今回の書籍 40/100冊目
『H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ』

東南アジアでは既に鳥インフルエンザの人から人への感染が起こっている。人間に爆発的に感染する新型に変わるのは時間の問題。大量輸送時代の現在、日本に入り蔓延するのは瞬く間だ。その時ほとんど無対策といっても過言でない日本では、どのような惨状になるのか。科学と医学そして現実に基づいた完全シミュレーション・ストーリー。空気感染で広がる新型インフルエンザの真実を伝える一冊。

岡田晴恵著

定価(税込)1,680円

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