日本でヒトからヒトへ
感染するのは時間の問題か

 日本では04年に4件、07年にも4件の鳥インフルエンザが養鶏場などで“集団発生”し、膨大な数のニワトリや野鳥が殺処分されました。ウイルスの多くはH5N1型でした。「小説」のストーリーは、これらの現実を踏まえながら展開していきます。以下は、大学教授、新型インフルエンザ対策委員会メンバー、病院副院長ら登場人物によるやり取りです。

「正直、H5N1ウイルスはいつ新型、つまりヒト型ウイルスになっても不思議じゃない。1997年に香港で出てもう10年。現在の流行が始まった2003年からは、世界各地に拡がっている。皆も知っている通り、日本は山口県や京都など各地で起こった鳥インフルの封じ込めに成功したが、東南アジア諸国では知識も準備も費用も不十分なために、初期対策に失敗し、それが渡り鳥で拡がってしまったんだ。ヨーロッパにもウイルスは入った。中国、インドネシアや中東、アフリカなどでは患者が徐々に増えている」

「あぁ、それなら俺も見ている。WHOの鳥インフルエンザの拡大マップによると、現在、世界10ヶ国。そのうちアジアでの感染死者数は100人以上に達しているよな」沢田が言葉を足す。それを受け、また秋場は続ける。

「そうだ。監視体制や検査体制が不十分だから、公表の10倍以上いるというのが本当のところだろう。つまり、1000人以上は死んでいるんだ。……」(32~33ページ)

 WHOが公表しているH5N1型鳥インフルエンザの確定症例によると、03年11月以降の発症者数は計648人(13年12月20日現在)、うち死亡は384人。死亡率は59.2%に達しています。もっとも、日本ではヒトへの感染や発症は一人も確認されていません。宮崎県の事例に見られるように、鳥に発生した段階で早期発見し、早期対応を徹底したことが奏功したと考えられているようです。ただし、東南アジアではヒトからヒトへの感染が疑われる事例がある――「小説」はそう指摘しています。

「ただし、証明されていないだけだ。ヒト-ヒトの感染も報告は既に幾つかある。ベトナムの結婚式のパーティで鳥を調理した新郎が罹り、看護した姉妹と新婦が二次感染したり、タイで発症した子供を看護した母親が感染して死亡したり。他にもウイルス検査がなされていないので確定できない疑い例も多い。2003年以降、もう世界では鳥を、感染と感染の疑いの両方で、2億羽以上も殺してるんだ。鳥の中じゃあ、H5N1はもうパンデミック(大流行)を起こしているといっても間違いはないんだよ。だから、もうヒトへの感染を止められない。ヒトへの感染が増えているというのはあたりまえの話なんだ」

「秋場の言う通りだ。WHOはH5N1型の鳥での封じ込めに失敗したと2003年に言っている。もはや新型インフルエンザの発生は止められない、時間の問題だと公式に言っているんだよな。……」(39~40ページ)