実は奨学金返還訴訟は増えているが
奨学金の返済率は減っていない

 まず、「奨学金滞納問題」の背景から説明しよう。前述の「2012年までに約100倍」というデータは、単純に返還しない人が激増したということではない。行政改革によって日本育英会が日本学生支援機構に引き継がれ、「金融事業」と位置づけられたため、回収を強化せざるを得なかったという見方がある。

 事実、ここ十数年で奨学金の未返還率が著しく増加しているというデータはない。日本学生支援機構が2010年に発表した「奨学金返還回収状況について」によれば、1998年度の返還率は80.5%で、2008年度は79.7%(第一種奨学金と第二種奨学金の合計)。

 未返還額は10年間で267億4300万円から723億2900万円へ増えているが、これは要返還額(貸した額)が、1369億1900万円から3557億6200万円に増加しているからである。日本学生支援機構は、2011年度の「返還促進策等検証委員会報告書」で、2013年度までの目標返還率を82%以上と設定している。

 目標返還率は82%以上。これを高いと見るか低いと見るかは人によって異なるかもしれないが、返さない、もしくは返せない状況にある人もいることは事実である。また、昔と違って正規雇用や終身雇用が減りつつある現代のなか、返済できない状況の人が増えることも考えられる。

 同じく日本学生支援機構の調査「奨学金の延滞者に関する属性調査結果(2010年度)」では、延滞者の71.4%が年収200万円未満であり、年収300万円以上での延滞者は10.8%だった。年収が300万円台に到達するか否かが、延滞者になるかどうかの分かれ目のようだ。

 2012年10月に日本経済団体連合会が発表した「2012年3月卒新規学卒者決定初任給調査結果」によれば、大卒者(事務系)の平均初任給は20万7585円。賞与や2年目以降の伸び幅にもよるが、たとえば地方から上京して1人暮らし、年収300万円で親からの援助もない人のケースを考えると、月額2万円程度の返済であっても負担は大きいと想像できる。

 そして昔と違うことは、現代は「年次が上がるに連れて給料が右肩上がりになる」「定年までこの企業に勤めていれば安心」と簡単に信じられる時代ではないことだ。