1月下旬に開催されたダボス会議で、安倍首相が現在の日中関係を第1次世界大戦前の英独関係になぞらえ、物議を醸した。折しも今年は第1次世界大戦勃発から100年にあたる。安倍首相の発言自体は間違ってはいないものの、日中関係がそうならないように有効な手を打っているとは言い難い。欧州では第1次、第2次の2回の大戦を経て、100年前とは打って変わって、大幅な軍縮が進んでいる。そこから学ぶことは多い。

物議を醸した安倍首相発言

 安倍首相は1月22日からスイスのダボスで開かれた「世界経済フォーラム」に出席、記者会見で司会に当たっていた英国「フィナンシャル・タイムズ」紙の主席外交論説委員ギデオン・ラックマン氏の「尖閣問題で日中の武力衝突はありうるか」との質問に対し、「イギリスとドイツは第1次世界大戦前、貿易で相互関係が深かった。日本と中国も今、非常に経済的結びつきが強い。だからこそ、そうならないように事態をコントロールすることが大事だ」と答えた。

 今年は1914年に勃発した第1次世界大戦の100周年に当たり、欧州では各地で記念行事が計画され、軍人の戦死者802万人、負傷者2122万人、民間人死者664万人を出し、欧州の衰退を招いたこの無益な戦争の原因論も盛んだ。安倍首相はそれに合わせて、気の利いた応答をしたのだろうが、欧米のメディアでは日本の首相が中国との戦争を予期しているかのように報じられ、またもや物議の種となった。フィナンシャル・タイムズは「興味深いことに、安倍首相はそのような紛争は論外だと明言しなかった」と報じ、1月24日の社説では「東シナ海での日中戦争の可能性は世界が直面する最大の安全保障上の危険の一つ。日中両政府の言動は紛争の可能性を低めることに貢献していない」と論じ、安倍首相が1914年の欧州を現在に例えたのは「ぞっとする程恐ろしく、煽動的だ」とも述べた。

 公平に見れば安倍首相の発言の趣旨は「そうならないようにすべきだ」と言うのだから、この発言は不気味ではあっても「煽動的」という非難は当たらないだろう。とはいえ、経営者が「倒産」という言葉を軽々に使ってはならないのと同様、一国の首相が戦争を示唆するような言辞を発すれば衝撃が走るのも当然で、慎重さが必要だったか、とも考える。