2013年4~12月期決算で、純利益220億円と前年比2倍以上となった総合印刷の雄、大日本印刷(DNP)。不振が続く出版印刷事業を、エレクトロニクス部門が救った格好だが、成長を軌道に乗せるには、新たな大黒柱の模索が必要だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)

大日本印刷本社ビル(東京都)

「新製品を扱っているクリニックを紹介してほしい」。大日本印刷研究開発センターライフサイエンス研究所の清水雄二所長は、不妊に悩む知人からそう請われたという。

「不妊治療の問題は、高額な費用だけではない。治療を受ける女性は、生理が始まるたびに絶望感にさいなまれる。その軽減ができればうれしい」──。

 昨年10月、不妊治療クリニック向けに新しい体外受精卵の培養皿(ディッシュ)が発売された。この「LinKID培養ディッシュ」を開発したのは、医療機器メーカーではない。総合印刷大手、大日本印刷だ。

 最大の特徴は、皿の底に設けられた、受精卵を一つずつ収められる直径280マイクロメートルの微細な“くぼみ”だ。印刷業で確立した微細加工技術がここに存分に生かされている。

 従来の底が平らな培養皿では、経過観察の際に発育がよいと目星をつけていた受精卵が成長に伴って移動し、見失ってしまうという問題が生じていた。だが、「LinKID培養ディッシュ」は、狭い凹部に受精卵が収まるため見失うことはない。

 さらに、このくぼみ構造は、受精卵の発育を促進する「個別管理」と「グループ培養」を両立させることも初めて可能にした。

 40歳以上を対象に、従来の培養皿との比較研究を行ったところ、例えば、受精卵の発育指標の一つで受精卵の大きさを示す「胚盤胞凍結率」が、従来の培養皿の20.7%から30.9%へと10ポイント以上も向上することが確認されている(みなとみらい夢クリニックによる研究結果)。

 もともと、肉牛の受胎率向上を目的に始まった研究をヒトに応用して誕生したこの新培養皿。2016年3月期の売上高は5億円の見込みだが、体外受精の国内実施件数は年間24万件超と伸び代は大きい。