バウアー氏はパラリンピックがアメリカ国内の障害者スポーツに与えてきた影響についてこう語る。

「パラリンピックの開催がアメリカ国内の障害者スポーツに大きな影響を与えた事実は疑いの余地がないだろう。大きな国際大会が開催されることによって、障害者スポーツの存在がより注目されるようになった。また、パラリンピックで活躍するアスリートの姿に感銘を受け、障害者スポーツに興味を抱き、理解を示してくれる人が急増した。ポジティブな影響は障害者スポーツの内部でも顕著になった。世界中から選ばれたトップアスリートが集まるパラリンピックが開催されることによって、目指すべき目標の1つが明確化されたのだ」

 バウアー氏はアメリカにおける障害者スポーツの特徴として、傷痍軍人の積極的な参加を挙げる。バウアー氏自身もベトナム戦争で負傷しているが、過去10年を振り返っても、多くの米兵がイラクやアフガニスタンで負傷しており、除隊後の社会復帰は決して容易ではない。

「障害者スポーツの普及や各種競技の大会運営のためのまとまった予算が必要な現状は、アメリカも世界各国の状況と同じだ。幸いにも経済的な支援はさまざまな形で行われており、個人や企業による寄付も多いし、慈善団体が設置した基金や連邦政府からの助成金にも助けられている。連邦政府の助成金でメインとなるのが、退役軍人省からの助成金で、重傷を負って帰国した軍人の社会復帰を支援する目的で障害者スポーツへの予算も設けられているのだ」

ロンドン大会後に
可視化された構造問題

 2012年にロンドンでパラリンピックが開催されたイギリスの障害者スポーツ事情はどのようなものなのか。

 イギリス国内で唯一の障害者ニュース専門サイト「ディスアビリティ・ニュース・サービス」のジョン・プリング編集長は、ロンドン・パラリンピックを境にイギリス国内の障害者に対する注目度と、障害者アスリートの意識も大きく変化したと語る。

「ロンドン大会によって障害者アスリートを取り巻く環境に大きな変化が見られるようになった。パラリンピックから3ヵ月後、英パラリンピック協会主催のスポーツイベントが行われ、1000人以上が参加したのを皮切りに、翌年にも障害者スポーツに関するイベントが継続して行われた。私も昨年開催されたイベントに足を運んでみたのだが、パラリンピックのスター選手からサインをもらうために、多くの若者が列を作って並んでいたほどだ。ロンドン大会後に障害者がスポーツ活動を行えるクラブの新設がイギリス各地で相次ぎ、2012年のパラリンピックで活躍したアスリートは現在も定期的にテレビ番組に出演したり、企業の広告塔として活躍したりしている。社会的な影響力を手に入れたスター選手が、政府による福祉予算カットといった問題をイギリス国内の障害者の代弁者として、問題提起してくれるようにもなった」