注目のクリミアの住民投票は、「ロシア編入」の賛成票が95%を突破。クリミア自治共和国の議会はこの結果を受けて直ちにウクライナから分離・独立を宣言。さらに、ロシアに対して編入を求める決議を、出席議員全員の賛成によって採択した。

 そしてロシアのプーチン大統領は18日午後、電光石火クリミア編入を表明し、クリミアの首相と編入のための条約調印を断行した。あっという間に高い塀を乗り越えたのである。

 住民投票では1割を占める先住タタール人の多くは棄権にまわったとされるが、それにしても予想外の大差であった。ロシア系が6割に過ぎないと言われるから、そもそもこの選挙が公正に実施されたものであったかどうかも釈然としない。

 テレビでの投票風景をみると、投票箱は何と透明で、投票用紙がヒラヒラと箱の底に舞い降りていた。これでは誰がどんな意思表示をしたのか分かってしまうのではないか。クリミア政府やロシアなどからの武力による脅迫がどの程度あったのか。投票行動の自由度に疑念は残る。

今のウクライナ情勢は
第二次大戦前夜のチェコスロバキア?

 私は今回のウクライナ情勢をみていて、ナチ・ドイツの犠牲となった第二次大戦前夜のチェコスロバキアを思い出した。

 ナチ・ドイツのヒトラーは、民族自決の名のもとに、チェコスロバキアのズデーテン地方のドイツへの割譲を強く要求した。ズデーテンはドイツ、ポーランドとの国境沿いのチェコの丘陵地で、12、13世紀に植民したドイツ人の子孫など約300万人のドイツ人が居住していた。

 1938年のミュンヘン会談で、イギリスとフランスは、「これが最後の領土要求」というヒトラーの言葉を信じ、チェコスロバキア政府の意向を全く無視してヒトラーの要求に屈した。ヒトラーはその翌日にはズデーテンに進駐、そのままチェコスロバキア全土を侵略。翌年ポーランドに進撃して世界大戦に突き進んだ。

 ウクライナがチェコ、ズデーテンがクリミアとすればなぜかよく似ている。ヨーロッパ諸国の弱腰も同様だ。

 ズデーテンのドイツ人は、それまでチェコ人と平和的に暮らしていたのにヒトラーが操るズデーテン・ドイツ党に民族主義の火をつけられるや浮足立ったのである。

 プーチン大統領をロシアのヒトラーだと決めつけるつもりは毛頭ないが、軍事力を背景にクリミアをロシアに併合し、さらにウクライナ東南部で同じような動きに加勢したりすれば、そう見られても仕方ないだろう。既にバルト3国などロシア系住民が多い国では不安が募っていると言う。「これが最後の領土要求」とは信じられないからだ。