「もっとも輝くカットや磨き方は石によって違う。それは人間も同じで、得意なこと、好きなこと、頑張り方……誰にでも当てはまる正解はない」。そう白木氏は言う。今の自分で一歩を踏み出すために必要な課題設定の方法や心の持ちようを語る、連載第四回。
今できなくてもチャンスを逃さない
「今は」たどりつけなくても、これくらい努力したらこれくらいで行けるかな、と成長の見込みを考えて、それに沿って行動する。それは、「楽観的に努力しつづけられる」原動力になります。
HASUNA立ち上げ準備をしているまさにそのとき、社会起業家のジョン・ウッド氏の講演会に行く機会がありました。彼はもともとはマイクロソフト社で働いていた方で、途上国の教育機会を支援する組織「ルーム・トゥ・リード」を立ち上げた、私が尊敬する人のひとりです。
講演会が終わりにさしかかり、質疑応答に入ったところで私は手を挙げました。どのような質問をしたのか正直なところあまり覚えていないのですが、その中で「エシカルなジュエリーブランドを作ろうと思っている」と話したところ、講演会が終わったあとにとある女性が近づいてきてこう言いました。
「実は、そういう婚約指輪を探していたんです。夫と世界一周をする中で、鉱山の実態について耳にすることがあって、『自分の幸せの裏に悲劇があるなんて嫌だね』と夫婦で話していました。ぜひ、私たちの指輪を作ってください」
まだ会社にもなっていない。実績もない。ちゃんとしたものができるかもわからない。それでも私の思い、コンセプトだけに共感して、その方は一生ものの指輪をゆだねてくださったのです。嬉しくて嬉しくて、「はい! 正直まだ作ったことはありませんが、トライしてみます」とすぐに返事をしました。
ただ、コンセプトに共感してもらったといっても、あくまで「まだやったことがないこと」です。それを形にしていかなければなりません。しかも、彼女の期待を超えるもので。
「できないかもしれない。けれど、やってみなければわからない」
しかし、知り合いのダイヤモンドのディーラーにこの話をすると、「産地が分かる、しかもエシカルなダイヤなんてないよ」とあっさり言われてしまったのです。ひとつくらいはあるだろう、と思っていた私の希望は打ち砕かれましたが、そんなことは言っていられません。約束した以上、なんとかしなければならない。
「できないはずはない」
そう思い込みながら必死であらゆるルートをたどって情報を集めていくと、まさにちょうど知り合った方から、「ここのダイヤモンドなら大丈夫なはず」とカナダ産のダイヤモンドに関する情報を教えてもらえたのです。調べてみると、カナダのどの鉱山で採掘されたのか、また、不当労働や環境破壊がないのかすべてわかっている、正真正銘彼女が求めていたダイヤモンドでした。
「よかった」、ほっと息をつきました。まだ会社もなく個人取引ということで最初は取引してもらえるか心配でしたが、ここまできたら心配していても仕方がない、と急いで取引のオファーをしたところ、OKの返事をもらえました。「ムリ」を乗り越え、はじめての商品を完成させることができたのです。まだ見ぬ鉱山の方々にも、私がお支払いしたものが届く。自分のやっていることの意義をあらためて強く感じました。
こうして初めてのお客様にジュエリーを手渡すことができたのでした。お渡ししたお客様には「ダイヤモンドの入った婚約指輪をもらうのが夢でした。でも、その裏に何があるのだろうと思うと怖くて買えずにいて……。その夢を実現してくださって本当にありがとうございます!」と心から喜んでいただくことができ、私も感動して涙が流れてきました。