実績あるビジネスモデルが
失敗した3つの理由

 店頭での新たな顧客体験を創出し、セールをやめて一定価格で販売をするという、アップルストアの成功モデルは、なぜJ.C.ペニーでは利益を生まなかったのだろうか。

 それは、3つの理由により、ビジネスモデルが「利益モデル」として機能しなかったからである。

 第1の理由は、「常に一定の価格で販売する」ことが、J.C.ペニー顧客の購買行動と合わなかったためである。

「これまで25ドルの値札をつけ、それを期間限定セールやタイムセールといった形で15ドルに割引きして売っていた商品を、これからは常時20ドルで売っていく」というEDLPモデルは、セールや割引が大好きなJ.C.ペニーの中核支持層の反発を招いた。あるときは同一店舗の売上げが前年比2割も落ち込んだという。

 洋服などの商品カテゴリーでは、多くのアメリカの消費者にとって、「セールを狙い、情報を集めてどれだけ割引いて買うことができるか」というゲームをプレーしているようなものである。J.C.ペニーの顧客はまさにそれで、買い物体験とは、J.C.ペニーのブランド体験ではなく、「少しでも安く手に入れるプロセスを楽しむ行動」だったのである。

 第2の理由は、「価格の水準を下げる」ことが、J.C.ペニーが提供する商品の品質に対する疑義を招いたことにある。

 顧客は、値引きセールは小売の販促施策であると認識していた。一方、洋服の価格は品質に直結する、と受け止めていたのである。したがって、定価自体が低価格となると、ラルフローレンなど一流アパレルメーカーの商品にすら品質に対する疑問が生じてしまい、イメージを毀損することとなった。

 第3の理由は、「常に一定の価格で販売する」ことが、競合の施策に対する対応力不足を招いたことである。競合店が大幅な値引きセールを仕掛けた際には、J.C.ペニーのEDLPが他店のセール価格より高い、ということもあった。常に一定の価格で販売することにより、J.C.ペニーは、競争環境の中で柔軟な対応力をも失うこととなった。

 常に一定の価格で販売するというプライシングによって、顧客の購買意思決定のプロセスから、セール価格への期待という変動要因を取り除けるため、ある意味でビジネスモデルは単純化できる。そのぶん、企業はブランド形成に集中出来るというメリットがある。もしJ.C.ペニーがアップルストアのように、独自性の高い商品を提供することのできるビジネスであったなら、ジョンソンの考えたビジネスモデルは再び成功したのかもしれない。

 一つの事業で利益を生んだビジネスモデルでも、別の事業では首を絞めることとなる。J.C.ペニーは、2014年1月15日、国内33店舗の閉鎖と2000人の人員削減を発表したのである。

 このように、顧客に対する価値と、利益を生み出す仕組みが適合して初めて、ビジネスモデルは機能する。本連載では、利益モデルを中心に、ビジネスモデルの核心に近づいていきたい。次回は、同じ業種の、異なる利益モデルを取り上げる。

参考資料
「アップルストア成功の秘密」The Wall Street Journal ,2011/06/16
「Why Everyday Low Pricing Might Not Fit J.C. Penny」Bloomberg Businessweek, 2012/05/17
「The 5 Big Mistakes That Led to Ron Johnson’s Ouster at JC Penney 」TIME, 2013/04/09

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