アップルストアのビジネスモデルを、
J.C.ペニーに移植

 そのジョンソンが売上不振にあえぐJ.C.ペニーを立て直すため、CEOとして招かれたのは2011年のことである。全国的に名も知られ、全米に約1100軒の店舗を構えながら、将来性に欠ける「おばさん御用達のデパート」を生まれ変わらせることができるのか、そんな期待を内外からかけられてのことであった。

 彼は、アップルと同様のビジネスモデルを持込み、J.C.ペニーを立て直そうとした。

 まず、プライシングの仕組みを大胆に変え、常に一定の価格で販売することを決定した。百貨店では、高価格のものを値引きセールで低価格にして売る、というモデルが一般的であった(「High-Lowプライシング」と呼ばれる)。実際2011年当時J.C.ペニーは、年間590ものセールを実施していた。これを撤廃し、定価自体をスーパーマーケットのウォルマートに代表されるEDLP(Every Day Low Price)モデルにすると打ち上げたのである。

「定価販売は利益の1%にしか貢献しておらず、3/4の商品は50%以上のディスカウントで売っているという現状では、そもそもの価格設定に意味が無い。スターバックスでもアップルストアでも、商品の値段はいつも同じである。きちんと利益が取れる水準に価格を下げ、セールと割引クーポンを撤廃する」これがジョンソンの主導した、利益モデルの変革であった。

 一定の価格での販売を決定した背景には、「店舗での新たなショッピング体験を提供しよう」という、アップルと同様の戦略があった。ジョンソンは、安く買えるから来店するのではなく、行くのが楽しいから来店する、そうした店舗作りを目指したのである。

 ジーニアスバーならぬ「Denim Bar(デニムバー)」を設置し、流行のブランドが並ぶ店に変えようとしただけではない。彼は「リアル店舗は、一見E-コマースに押されているように見えるが、顧客体験を設計することでまだまだ可能性がある」と語り、2014年までにレジを撤廃すると打ち出して周囲を驚かせた。

 キャッシャー、レジ、チェックカウンターをなくし、かわりにWi-Fiやモバイル決済、RFID(ICタグを使った無線情報による商品管理)などの技術を組み合わせて使う他、買い物客が自分で精算できるセルフ・レジの手段も用意し、新しい決済体験を創出するとのことであった。

 様々な改革は、利益を生み出すビジネスモデルとはほど遠い結果となった。売上高は2012年に25%落ち込み、株価は57%も下落、ジョンソンは解任されることとなった。

アップルストアのビジネスモデルは、<br />なぜ2度は通用しなかったのか?