たこ焼き味のチョコレートがあってもいい、100点を目指さない勇気

――発想が生み出せずに困っている人も多くいますが、どうしたらよいのでしょうか。

松波 「仮説力」を生み出すことだと思います。これまでとは違った新たな仮説が必要です。これまで「これが自社の価値だ」と思っていたものでさえ、顧客との間でギャップがあるかもしれない。従来の発想を超え、妥当性も高い新たな仮説をどう出せるか。

 そのためには、創造力(クリエイティビティ)が必要ですね。私は「リフレーム」と呼んでいますが、新たな枠組みで捉え直すことが重要です。「えいや!」と“飛び地”に行くこと。妥当性は重要ですが、「従来の枠組みの中での正しさ」にこだわりすぎていると、これまでの枠組みをなかなか抜け出せません。

谷井 なるほど。

松波 受験になぞらえるとわかりやすいと思います。受験生が勝つためには、全受験科目の総得点を高める必要があります。それぞれの科目の上限は100点ですから、受験生の戦略は「得意科目の点数を維持しつつ、苦手科目の点数を上げる」ということになります。つまり、点数の低いところを上げるように努力する、という方策になりますね。しかし、ビジネスの世界では、100点満点という上限はないので、1万点を取れる場合もあります。

 私は、スポーツ選手のように、得意分野をしっかり伸ばすという方針でもいいのではないかと思います。そのうえで重要なことは、先ほどの仮説力、そして、勇気です。100点かどうかわからない環境に踏み出すためには、勇気が必要です。鋭い洞察に基づく新たな仮説、そしてリーダーシップ。今まさに求められているのは「知的な勇気」だと思います。

谷井 誰しも、正解を探そうとしていますね。変な例えですが、いたずら心から、たこ焼き味のチョコレートをつくってもいいと思います。少しくらい失敗してもいい、60点取れれば単位はもらえるんだという発想も必要ですね。100人が称賛するようなアイデアはないですよ。

松波 リーダーには、目利きさが求められると思います。あのビートルズでさえ、オーディションに何度も落ちています。いざビートルズが目の前にきたとき、それを良いと判断できるかどうか。

 先日、セミナーをしたときに、参加者に問いかけたことがあります。「あなたは、来年の仮面ライダーの、新しいライダーのキャラクターを意思決定する責任者になった。そのときに出されたアイデアが、『新しい仮面ライダーはオタクの高校生で、変身しても強くならない』だとしたら、どうしますか?」と。通常であれば、「リスクが大きすぎる」「それはそもそもヒーローではない」という意見が出て、アイデアが採用されることはないでしょう。

 最近のアメリカの映画に『キックアス』というヒット作があります。ある日、ヒーローになろうと決意した高校生が、通販で買ったコスチュームを着て、街の悪者に立ち向かいます。このヒーローは超能力を持たない生身の人間でしかないので、とても弱いのですが、映画は大ヒットを記録しました。リーダーが受験の戦略で、欠点をなくそうという枠組みで考えると、それまでなかった発想を理解してもらうことは難しい。ここが課題だと思います。

谷井 われわれのビジネスも、事前に結果が見えるわけではありません。期待に対してお金を払っていただいているため、お客さまにも相当な勇気がいると思います。

松波 そうですね。われわれの仕事は、医者と似ているところがあります。実際に観察してみるまで、どういうアウトプットになるかわからない。診療しないと病名も治療法もわからないのと同じです。お客さまには勇気をもって発注していただいていると思います。

谷井 シナジーなんとかという、あまり知られていない企業に仕事を発注していただけるということは、その発注された方には勇気と責任があるということです。そう思うと、われわれも必死になって仕事をするしかない。この積み重ねしかないですね。

松波 そう思います。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

谷井 こちらこそ、どうもありがとうございました。


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