「弟子入りする」ような姿勢で信頼を築くことが大切
松波 まだお会いして間もないなかで言うのは失礼かもしれませんが、谷井社長は、とても正直な方だと感じました。
谷井 自分が変わるきっかけは、学生時代の経験でした。学生の頃も、教科書の転売をしていました。学生ベンチャーの走りともいえますが、まだそうした学生は珍しかったので、いろいろなベンチャーの社長が話を聞いてくれます。学生なのに、30~40代の社長と対等に話せている気がしていました。
当時は、気分を良くして家に帰っていたものですよ。ただ、彼女からは「あんたな」と言われたんですね。「対等かもしれないけど、目上の人は足元がよく見えているから、気をつけなさい」って。自分では「そんなことはないだろう」と反論していたものの、社会に出てからその現実を知りました。
今はこのような立場になりましたが、元気な学生たちに会うと、当時の私と重なるところがあります。「ああ、こういうことかと」。そのときから、自分を大きく見せるために背伸びするのではなく等身大でいこうと、よりこうべを垂れるようになりました。ちなみに、その彼女というのは私の妻です(笑)。
大阪ガス行動観察研究所所長。株式会社エルネット技術顧問。サービス学会監事。
1966年、大阪府生まれ。神戸大学工学部環境計画学科卒業、神戸大学大学院工学研究科修士課程修了後、1992年に大阪ガス株式会社入社。基盤研究所に配属され、生理心理学、人間工学関係の研究活動に従事。アメリカ・コーネル大学大学院にて修士号(Master of Science)取得ののち、和歌山大学にて博士号(工学)を取得。2005年、行動観察ビジネスを開始。2009年に大阪ガス行動観察研究所を設立すると所長に就任し、現在に至る。
著書に、『「行動観察」の基本』(ダイヤモンド社)、『ビジネスマンのための「行動観察」入門』(講談社)、編著書に『ヒット商品を生む 観察工学』(共立出版)がある。
松波 安心しました(笑)。こうした正直な姿勢が、信頼を生むのでしょうね。われわれも、家庭など現場に入り込んで観察を行います。その際、相手に信頼していただく秘訣は、「教えてもらうという姿勢をいかに持つか」という点につきます。
研究所では、よく「弟子入りする」という表現を使っています。どんな年齢や立場であっても、その人につかないとわからないことが膨大にあるので、それを教えてもらう、というスタンスが大事です。先日も、20代の人に「弟子入り」してきたところです。
あらゆるビジネスにおいて、信頼関係は重要ですよね。どういうビジネスであっても最後は「人間と人間」なので、理屈が正しいかどうかということも大事ですが、「この人を応援したい」と思っていただくことも重要です。
モテるためには、「正答を出すことに長けた優等生」であればそれでいい、というわけではなくて、共感できるといったことが重要だったりします。私も昔は理屈が勝っていたのですが、論理的に正しいからといって信頼してもらえるかというと、そんなことないですよね。
谷井 そうですね、テクロノロジーうんぬんなど、いろいろな要素はあると思います。ですが、すべてのビジネスは人と人との営みですよね。重要なのは、「隣の人よりも、僕のほうがあなたのことを考えていますよ」という姿勢ではないでしょうか。
松波 実績を出されている方がおっしゃると、とても説得力があります。たしかに、そういう企業にはお金を出しますよね。