

ただ、らくらくスマートフォンに搭載されているデバイスを始め、彼らの有するデバイスには注目すべきものが少なくない。タッチパネルを押すと振動して、深く指を押し込まれたような印象を与える技術など、ハードウェアレベルでのUI/UX技術は、多くの企業が持っているわけではない。
そう考えると、MWCにおける彼らの本当の狙いは、らくらくスマートフォンという製品そのものではなく、同機で採用しているような要素技術の売り込み、なのではないか。実際それらは、最終製品という形でパッケージングしないと理解しづらく、逆に製品になっていれば、一目見てその意味や良さが分かる。
同じことは京セラにも言える。新型スマートフォン「Torque」を水没状態で稼動させるなど、興味深い展示を行ってはいたが、最終製品の販売面から見たら効果は見えない。しかし、それこそサムスン電子のギャラクシーシリーズでさえも防水機能が弱かったように、こうした要素技術は日本企業に一日の長がある。
高い技術力を駆使して、高付加価値の「下請け」を担う――こうした事業形態は、スマートフォンでは顕著になりつつある。有名なのはiPhoneの製造を担うフォックスコンだが、最近ではアルカテルも通信機器ベンダーとしてだけではなく端末製造の下請けが大きな事業となっている。そしてそのアルカテルも、製造技術のアピールを含め、自社ブランドでも最終製品を製造している。
確かに、スマートフォンの雌雄が決しつつある中、グローバルブランドを今から作っていくのは至難の業である。そこで勝ち目のない競争に身を投じるよりも、ソニーのように特定市場でのシェアを目指して生産規模と付加価値のバランスを目指すか、あるいは要素技術やパッケージング技術をグローバルに売っていく方が、メーカーとしては正しい戦略なのかもしれない。
今年のMWCで注目された大きなポイントが、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOの基調講演だった。いわゆる上位層(OTT)事業者が、下位層(通信事業者や通信機器ベンダー)の祭典であるMWCに来て基調講演をするというのは、それ自体なかなかスリリングなイベントである。