株主還元が市場のキーワードとして根づいてきた。ところが、一般に企業の株主還元の尺度というとシックリくるものが少ない。よく使われる配当性向や配当利回りについては、そもそも配当が多ければ本当に株主還元なのかどうか議論もある。だが、投資した資金を早く回収できるとの意味で、やはり株主還元における重要なポイントだろう。
最近は自社株買いを増やす企業も多いが、これは増配と同じような意味合いがある。自社株買いをすれば、発行する株数が減るため1株当たりの利益(EPS)や純資産(BPS)が増える。理論的にはこれによって株価は上昇するため、投資家はキャピタルゲインが期待できる。よって自社株買いも株主還元の重要なポイントだろう。逆に企業が新規に株式を発行するのは自社株買いと反対の行為であり、この観点では株主還元に反することになる。
さらに広げて考えてみよう。たとえば、企業が自社株買いの一方で社債を発行する場合もある。自社株買いの側面では株主還元となるが、その株を買うおカネを新たに借りて調達するケースはどう評価すべきだろうか?
増資は株主還元に反するため市場でいやがられる。これを避けるため社債を発行するのであれば、株主還元に反するともとらえられる。反対に、社債の償還によって企業がおカネを債権者に返済することは、企業の財務安定性を高めることとなり株主還元につながる。
このように株主還元にはさまざまな観点があり、個々の尺度では判断できない。そこでこれらをすべてまとめた指標がエクスターナルファイナンス(EF(イーエフ))だ。
EFをひと言でいえば、企業が1年間に外から調達したおカネ。株式と社債の発行額から、自社株買いと社債の償還、支払った配当の合計を引いたものだ。ここでは上図のように算出しているが、意味するところは同じである。このEFを総資産で割って投資尺度としたものがEFA(イーエフエー)で、EFAの高い企業は株主還元姿勢が悪い企業ということになる。
足元でこのEFAを使った投資効率が高い。左の真ん中の図は2006年末からの投資成果を比較したものだ。東証一部上場企業をPBRの低い順、EFAの低い順にそれぞれ3つのグループに分けてみると、「低PBR&低EFA」の企業に投資した場合には東証一部の平均を14.25%上回る結果となった。単純にPBRで5つのグループに分け、最も低いPBR銘柄に投資した場合は9.74%だから、約1.5倍の投資効率ということになる。「低PBR&低EFA銘柄」に要注目である。
(大和総研投資戦略部チーフクオンツアナリスト 吉野貴晶)