肉は決して体に悪いものではない。大豆や魚にもタンパク質は含まれているが、効率性という点で優れているのは肉だ。高齢になるにつれて食事量は減っていく。つまり少ない量でいかに効率よく栄養素を摂取するか、というのが鍵になってくる。

 もちろん、栄養バランスが大事なのはいうまでもない。大名になれば白米を食べる武将が多かったなかで、家康の主食は生涯、麦飯だった。麦飯はミネラルや食物繊維が豊富で、何より食べるのに咀嚼が必要だ。家康には現代よりもずっと硬かった肉をかめる咀嚼力が備わっていたわけである。

 肉を食べましょう、という動きが始まったのは、国がメタボ対策を推し進めたことで、肉を避ける人が増えたからだ。その結果、タンパク質不足の高齢者が増えた。このように1つの課題を解決しようとして、別の問題が出てくる関係性をトレードオフという。食生活において片方がよくて、もう一方が悪い、ということはあり得ない。食べることは必要だが、そこには常にリスクもある。何ごともバランスが大事ということだ。

 そういえば家康が最後に勝ち残ったのは、並び評される信長、秀吉と比べてリスクマネジメントやバランス感覚が優れていたからといわれる。当の家康本人は勝利の秘訣をこんなふうに語っている。

「長命こそが勝ち残りの源である」

※参考文献/
『武士のメシ』永山久夫著
「国民栄養の現状」(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)

<お知らせ>

本連載の著者・樋口直哉さんが原作をつとめた映画『大人ドロップ』が4月4日より全国公開中。是非、ご覧ください。原作本『大人ドロップ』は、小学館文庫から刊行されています。こちらもよろしくお願いいたします。

新刊『スープの国のお姫様』(小学館)も好評発売中です。