「勘」を形式知化する最先端の農業
岩佐 真山さんは執筆にあたり、どれくらい東北に行かれたんですか?
真山 私は3、4か月に一度は被災地に入り、定点観測を続けています。そこで気づいたのは、すくなくとも私が見ている範囲では、被災地に最初にできた施設がコンビニだったこと。しかし、コンビニが最初にできるというのは本来おかしい。普通は職があって、人が集まって、最後に店ができるという順序のはずです。
岩佐 まったくそのとおりですね。
真山 ところが現地の人には仕事がないまま、作業員やボランティアのために最初に店ができてしまった。外部から来る人は、そこで商品を買うことが支援になると思っていますが、本当の支援は、明日も明後日も、そこで暮らす人が働ける雇用をつくるということです。
岩佐 雇用がなければ、復興しても元の過疎に戻ってしまいます。
真山 これから雇用がどこに生まれるのかわからないことも、被災地で住宅地をつくる場所が決まらない一因です。岩佐さんは一粒1000円のイチゴをつくることに成功しましたよね。さらなる雇用をつくりだすためには、岩佐さんの事業を点から面へと広げていかなければならないと思うのですが、その点についてはどう考えていますか?
岩佐 ご指摘のとおり、これからどんどん広げていって、産地を形成していかなければいけません。でも、だからこそまずはモデルをきちんとつくらなければいけない。しっかり儲かるモデルをつくってから横に展開していかないと、震災前より酷い状態、いわば「大貧農地帯」を生み出すことになりかねません。でも強固な産地をつくることができれば、東北の農業は海外に出て行ってもじゅうぶん戦えるようになると思っています。
真山 しばらく農業にこだわるということですか?
岩佐 はい。
真山 でも、岩佐さんはもともとITという強いジャンルを持っていますよね。
岩佐 もちろん、ITを捨てるわけではないんです。今までの農業は、一口でいうと「勘」が頼りの産業でした。「手がベトついてきたから、ちょっと窓をあけよう」など、60代、70代の熟達した農業者が、長年の経験で培ってきた勘によって栽培を行ってきたわけです。でも、それだと今から若い人が入ってきても再現性がありません。日本の美味しい食べ物は、あと20年も経てば食べられなくなってしまうという危機的な状態なんです。
真山 後継者もいませんし、せっかく培われてきた技術がなくなってしまうと。
岩佐 そうです。しかし、ITの力を使うことで、彼らが培ってきた「勘」を形式知化することができる。それまでぼんやりとして掴み取りにくかった暗黙知を形式知化すれば、そこからさらに改良を加えてステップアップすることもできます。僕の本業のITで、農業を強くすることができるんです。
真山 おもしろいですね。