東北を中心に甚大な被害をもたらした東日本大震災の発生から3年。遅々として進まない復興や風化を危惧する声も出てきていますが、そんな被災地に対して特別な思いを抱いている二人がいます。「ハゲタカ」シリーズ著者であり、被災地の小学校を舞台にした小説『そして、星の輝く夜がくる』(講談社)を刊行したばかりの作家・真山仁さんと、被災地で一から高級イチゴビジネスを成功させ、その奮闘を記した著書『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)を出版した岩佐大輝さんです。自身も阪神・淡路大震災で被災し震災後の東北を精力的に取材する真山さんとIT企業社長として東京で成功しながら故郷で農業という未経験のビジネスに取り組んだ岩佐さんは、被災地で実感した課題をどう未来に伝えていこうとしているのか。クリエイターと読者をつなぐサイト「cakes」とのコラボ企画である白熱対談を3回に分けてお届けします。(構成:宮崎智之)

被災地で活動を続ける唯一のコツ

真山仁(以下、真山) 岩佐さんのご著書『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』をとても興味深く拝読しました。

岩佐大輝(以下、岩佐) ありがとうございます。

真山 仁(まやま・じん)
小説家。1962年大阪府生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、2004年『ハゲタカ』でデビュー。2007年に『ハゲタカ』『ハゲタカⅡ』を原作とするNHK土曜ドラマが放映され話題になる。地熱発電をテーマにした『マグマ』は2012年にWOWOWでドラマ化された。 最新作は『そして、星の輝く夜がくる』(2014年3月7日刊、講談社)。その他の著書に、日本の食と農業に斬り込んだ『黙示』、中国での原発建設を描いた『ベイジン』、短篇集『プライド』、3.11後の政治を舞台にした『コラプティオ』、「ハゲタカ」シリーズ第4弾となる『グリード』などがある。公式サイト http://www.mayamajin.jp/

真山 私が岩佐さんに対してまずうかがいたいのは、あの震災の後、ぼろぼろになった故郷を見て、逃げ出したいとは思わなかったのだろうかということです。岩佐さんのような人ってたくさんいるじゃないですか。つまり、東北生まれで東京に出て行って成功を収めた人たち。もちろん、岩佐さんのように社長にまでなった人ばかりではないと思いますけど、多くの方々が、震災が起きた後、一度は故郷に帰ってきていました。

岩佐 そうですね。

真山 でも、現地にとどまって故郷をなんとかしようと思った人は少なかった。岩佐さんも、東京に仕事と生活の基盤があるのだから、宮城県に住む親戚を東京に呼ぶという選択肢もあったと思います。どうして、岩佐さんは踏みとどまれたんでしょうか?

岩佐 僕が故郷の山元町に帰ってはじめに思ったのは、今回の災害は、もはや自分たちで無理に立て直すレベルのものではないのかもしれないということです。一度壊れて、また新しい人たちが集まって街をつくっていく。そういう歴史の大きな潮流に立ち会っているのかもしれないと。

真山 なるほど、最初は積極的に復興に取り組むつもりはなかったと。

岩佐 でもしばらく暮らしていると、まだまだ発掘できるビジネスのポテンシャルが山元町には残されていることがわかってきた。僕はずっと経営者をしてきたので、役に立てることがあるとすれば、会社を興して、雇用して、お金を稼いでいくことだけです。それで故郷に貢献できるなら、残ってみる価値があると思ったんです。