最上小国川流域の治水対策協議に見る
官主導「合意形成」の巧妙なやり口

 行政が主催する会合などを傍聴し、官主導による「合意形成」の巧妙なやり口を見せつけられることがある。あまりの巧者ぶりに、背筋が寒くなることさえある。

 行政側は膨大な資料と難解な専門用語を駆使し、ひたすら自らの主張を繰り返す。自分たちで選別した学者の意見のみを拾い上げ、その裏付けに利用する。異論は排除し、一切耳を傾けない。

 その一方で、地域振興策といった甘い囁きも忘れない。そうした餌を撒くタイミングも絶妙で、相手側に諦めムードが漂い始めた頃にそっと提示する。

 相手が実行への担保なき振興策につられて土俵に上がってくれば、勝ったも同然となる。行政への異論は時の経過とともに勢いを失い、反対を叫ぶ声は消えていく。こうして官製の「合意形成」がものの見事に完成する。日本の行政のお家芸とも言える。

山形県が進める「穴あきダム計画」の大穴<br />屈指の清流でゴリ押しされる治水協議の澱んだ内幕最上川の東北端の支流・最上小国川。ダムのない日本屈指の清流として知られる。天然アユの宝庫で、釣り客が絶えない

 山形県新庄市で4月29日、「最上小国川流域の治水対策等に関する協議」が開かれた。出席者は、山形県と小国川漁業協同組合(山形県舟形町)、地元自治体(最上町と舟形町)関係者など計25名。この日で3回目となる会合は2時間半に及んだが、治水対策等に関する協議とは名ばかりだった。県が建設を推進する最上小国川ダムの説明に終始した。

 漁協側から「こちらの意見(ダムによらない治水)も検討するということで協議が始まったはずだが、ダムの説明に尽きてしまった。非常に残念だ」(青木公・理事)と、県の姿勢を批判する意見も飛び出した。

 しかし、そのときすでに会議は最終局面に至っており、流れは変わらなかった。それどころか、県側は漁協側の指摘を完全に無視したまま、ある決断を迫ったのである。

 山形県はこの日、「これまでのダムのない川以上の清流・最上小国川を目指し総合的な取り組みを進める」として、流域の漁業振興策なるものを初めて提示した。ダム建設に同意することへの露骨な見返り策である。県側は最後の発言の場で、「(ダム案と振興策についての)漁協としての判断を示していただきたい」と漁協に回答を要求したのである。