目指したのは、今までの
日本酒になかったもの
――実際、地元の愛飲者向けの普通酒主体の体制から、純米造のみに舵をきられ県外にも販路を広げられました。当初の実験作からも、人気商品が育っていきましたよね。商品の変遷(図表参照)を簡単に伺えますか。
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今の「秘醸酒」シリーズに結実しているのですが、僕は当初、4つの課題を持って酒造りに取り組んできました。
第一に、日本酒の製法として古来から伝わり、酸やうまみがあってものすごい可能性を秘めている貴醸酒。これが20BY(2008年)で造った「陽乃鳥」(一時期、商標登録の問題で「茜孔雀」と名前を変えていた)。
第二に、山廃や生もとでなく、醸造用乳酸を用いない酒。これも20BYの「翠竜」や21BY(2009年)から始めた「亜麻猫」で実現しました。
第三に、日本酒はアルコール度数が高すぎるから、もっと軽い低アルコールのお酒。これは、22BY(2010年)の「碧蛙」や23BY(2011年)以降の「天蛙」ですね。
第四に、お米を磨きすぎない玄(くろ)い米で造ったお酒。これも、精米歩合90%でほぼ完成しているので、いま定番商品として出そうかどうしようか、迷っているところです。
それら以外に小仕込みの「やまユ」シリーズのほか、定番品として、通年火入れの「Colors(カラーズ)」シリーズと、通年生酒でお出しする「No.6(ナンバーシックス)」。それから、地元向けに造っている純米「新政」があります。
――当初掲げられた4つの課題は、現時点までにほぼ答えを見つけられたわけですね。
そこは、そうですね。どれも今までの日本酒になかったものを目指してきたつもりです。
「陽乃鳥」のようなライトタイプの味わいの貴醸酒はなかったし、「亜麻猫」以前に、山廃や生もと以外で醸造用乳酸を入れない酒はなかった。低アルコールの発泡酒でも、「天蛙」のような味わいで、無添加のものはありませんでした。あまり磨かない米で造る、いわゆる低精米の酒もです。糠っぽい味わいが特徴の自然派的なスタイルが主流でしたが、我々は、低精米だからといって安い酒を造るのではなく、逆にコストを度外視した吟醸製法を用いました。磨かない米の旨味をこのように表現した酒は、珍しいと思います。
今は、常温で保管して熟成させる生酒ができないかな、というアイデアで試した酒があって、これは本当に腐らないか、いま点検しているところです。