ラベルはまずインパクトを!
名称やロゴには“縁起”を重視

――個性的な銘柄名は、佐藤社長がすべて考えているんですか。

ハングル文字?と勘違いされた「やまユ」のラベル

 そうです。たとえば先ほど申し上げた酒造りにおける4つの課題に対応する銘柄は、中国の風水(四獣神:東の青竜、南の朱雀、西の白虎、北の玄武)に着想した銘柄名です。縁起もいいし。ただ、重視しているのは名前そのものというより、目に留まるマークというか、そのインパクトですね。

 「No.6」は、当蔵発祥の「6号酵母」を用いているので、ストレートに「6」としました。もともと、難解な漢字がドンと出たようなデザインには違和感がありました。「No.6」についても、名前というよりはマークのように捉えています。一度見たら絶対に忘れないじゃないですか。マークもなく、ただ凝った名前をつけたところで、誰も覚えられませんしね。「やまユ」も、出した最初はハングル文字か?と言われるのを聞いて、成功だと確信しました(笑)。

――同じ銘柄でも、ラベルの色味はかなり変化してきていますね。

 日本酒は工業製品ではないので一本一本違いますよね。そもそも生き物が造るものですし、米の生産年、技術者のレベルや思想によっても出来が違ってくることを、僕はあからさまに表明していて、それがラベルにも表れています。たとえば23~24BY(2011~2012年)の「やまユ」は、亡くなったスティーブ・ジョブズに敬意を示してiMacぽいパステルカラーになっています。

 「No.6」は、25BY(2013年)までシールだったラベルを、今は瓶に直接プリントしています。もともと22BY(2010年)で6号酵母の生誕80周年を迎えたのを機にデザインして、特殊な酒として翌年出したものを、24BY(2012年)から定番のラインナップに加えて今に至っています。生酒に変えて以降はマイナス5度の冷蔵庫で保存しているため、出荷時に取り出すと暖かい時期などはすぐに瓶に水分がついてラベルがはがれてしまうので、銘柄名を瓶にプリントすることにしたわけです。コストはかかりますが、見栄えは好評です。

カラーズの「ヴィリジアン・ラベル」についている会社のロゴは、6合酵母をイメージしたもの

――「カラーズ」シリーズのクリムゾン・ヴィリジアンのラベルに付けられたマーク(写真)も印象的ですね。家紋みたい。

 家紋でなく屋号は(創業の佐藤卯兵衛からきた)「やまウ」なのですが、(自分の名前である祐輔から付けた)「やまユ」という製品があるから紛らわしいし、「カラーズ」に付けているマークは、会社のロゴとして2014年から使い始めたものです。

 6号酵母をイメージして、6つの輪でできています。僕の家は浄土真宗の熱心な信者で、檀家総代も務めているのですが、仏教においても「六識」や「六道」、あるいは「六波羅蜜」(彼岸の世界に至る6つの実践行)、など「6」という数が象徴的に用いられているので、いいかなと思いまして。

――いま、地元向けに造っている「新政」は、社名を冠したお酒ですし、全国向けにリニューアルというのはお考えにないのですか。

 これはあくまで地元向けに設計している普通純米なので、それはないですね。「新政」は、純米なので普通酒のときより酸味はありますが、基本的に酸っぱいのが苦手な秋田の人の好みを反映した味わいにしようとはしています。うまくいっているかわかりませんが……。とはいえ四合瓶980円と手頃で、非常に美味しい酒ですよ。いま他製品の生産との兼ね合いもあって、十分な生産ができない現状なのですが……。

 ただし、地元用としてスーパーなどに向けて出荷したはずが、知らないあいだに意図しない県外の酒屋に置かれているなんてこともあって、販路の管理には頭を悩ませています。

(5/23後編に続く)