美味しいか美味しくないか、の
一元的な競争を避けられるか?
――酒造りの、特に実験作についてはブログで逐次報告しています。
高度成長期は、いかに手間ひまを省いて、合理的に安全に仕込むかが追求されてきましたが、今はいかに手間ひまをかけたかを直接販売店やお客様に伝えられますし、やったことは言ったほうがいいと思うんですよね。それが製品の一部を形作っていく部分もあるでしょうし。美味しい・美味しくない、という一元的な競争に巻き込まれたくない、という思いがあります。
――徐々に「原料は秋田県産米のみ」「酵母はきょうかい6号酵母*のみ」と規定し、個性をより鮮明に打ち出してこられました。
*「きょうかい酵母」は、国税庁・国立醸造試験場が主に採取した、いわゆる“国家認定酵母”。現在18号まである。
21BY(2009年)からは当蔵を発祥元とする6号酵母だけ、22BY(2010年)から秋田県産米だけを用いて、すべての製品を造っています。6号酵母は、曾祖父の5代目のころに、当蔵のもろみから採取されました。私が蔵に戻った当時はあまり使われなくなっていた古いタイプの酵母ですが、遺伝子的には現在主流の清酒酵母の親に当たる、ということが、多くの研究から分かっています。私としてはこのクラシックな素材に非常に思い入れがあります。
ほかに、今年から「やまユ」シリーズは木桶仕込みだけになりました。主力製品で、一気にこうした挑戦をするので、社内外からもっと慎重にやるよう反対もされるのですが…。少しずつ今の形に進化してきています。
――造り方はもちろんですが、「吟醸」表示をしないなど、“発信”法にも非常にこだわっていますね。
吟醸の話からすると、精米歩合(原料の米の雑味などをとるために表面を削ったあと、酒造りに使う部分の比率)で規定されるので、米を一定以上削ると吟醸と表示できるわけですけど、これはおかしいと思っているんです。ですから、すべて「純米」として、精米歩合だけ何%と書いています。
吟醸というのは「吟味して醸すこと」ですから、米を削ることとはなんら関係ない。純米というのは、米と水だけで造っているという意味で、きちんと名が体を表しているからよいのですが、吟醸の表示基準は「米を削るほど、いい酒になる」という間違った意識を助長しそうですから使いたくないんです。
「No.6」も、「S(スーペリア)タイプ」「R(レギュラー)タイプ」とうたっていますけど、これは「磨きの違い」ではなく「味の違い」を示しているだけです。きれいでさっぱりした酸味が好きな方はSを飲んでいただきたいし、濃口が好みの方はRを飲んでいただければいい。確かに値段の差はありますが、その差は”上下“ではありません。