郵政民営化の流れに基づき、昨年10月に設立された“ゆうちょ銀行”は来年1月から、自行のシステムを全国銀行協会が運営する決済システムに接続することが認められたという。それが実現すると、ゆうちょ銀行から国内の殆どの金融機関へ直接の振込みが可能になる。ゆうちょ銀行の利便性は大きく向上するはずだ。「決済システムへの加入は、本格的な民間銀行への大きな一歩」と評価する金融専門家もいるようだ。

資産総額220兆円の
巨大銀行の誕生まで

 郵政民営化への動きは、はるか以前から存在した。戦後の金融システムの遺物といわれた、財政投融資の入り口部分である郵政関連事業を改革する必要性は高かった。ところが、有力な集票システムを背景に、大きな発言力を持つ郵政族議員の抵抗は想像以上のものがあり、郵政民営化の掛け声は、海岸に寄せては返す波のようなものだった。それを曲がりなりにも突き破ったのが、小泉改革と呼ばれる動きだった。

 郵政民営化法案に基づき、2006年9月に準備会社が設立され、それが2007年10月に株式会社ゆうちょ銀行へと移行した。資産総額約220兆円を誇る、世界最大の銀行の誕生だ。現在は、持ち株会社である日本郵政会社の100%子会社だが、2009年度下期には、かんぽ生命保険と同様に株式が公開される予定である。ゆうちょ銀行の業務は、当面、通常の銀行と違って主に預金関連に限定されており、貸し出し部門がないため、収益性を維持するために、投資信託の販売に注力している。

 預金の受け入れや引き出しについては、既に多くの金融機関のATMでの扱いが可能になっている。一方、振込みについては、シティバンク銀行など一部の個別提携を結んでいる金融機関とのみ相互に振込みが可能だった。今回、全銀協の決済システムに加盟することによって、国内の殆どの金融機関と直接、振込み取引が行えるようになることは、利用者の利便性を大きく向上させることは間違いない。多くの人々にとって、より使い勝手のよい、身近な金融機関へとあゆみを進めたことになる。

ゆうちょの脅威に対し
一枚岩ではない他銀行

 ゆうちょ銀行があゆみを進めることは、競合する金融機関にとって、その脅威が増すことを意味する。元々、郵便貯金事業は、郵政公社の時代から、民間銀行の最大のライバルだった。全国的な展開や、効率を考慮しなくて済む経営姿勢では、民間金融機関では太刀打ちが出来ず、イコール・フッティングを求める声は強かった。郵政民営化が進んでも、そうした“ゆうちょ銀行脅威論”が無くなったわけではない。むしろ、貸し出し分野にも今後、参入のスタンスを見せ始めていることもあり、その脅威は増しているというべきだろう。