「働くってどういうことなのか、生まれて初めて真剣に考えました。こんな経験は、日本ではとても味わえない」。8月下旬、晴れ晴れとした表情でこう語るのは、私立大学に通うAくん(21歳)だ。
ここは中国広東省深セン市。大学の夏休みを利用してインターンシップ(就業体験)で中国にやってきたAくんは、日系企業の工場で、現地のワーカー(出稼ぎ労働者)とテーブルを並べ、半導体の製造ラインで部品を取り付ける作業を体験した。
Aくんの隣に座るのは、湖南省から出稼ぎでやってきた18歳の少女。Aくんは最初、「ニーザオ(おはよう)」さえ言えなかった。初めての海外で緊張していたうえ、気恥ずかしさもあったのだ。
しかし、次第に片言の中国語と筆談で会話ができるようになり、退屈だと思っていた単純作業もテキパキとできるように。最後は表情まで見違えるように変わったという。
Aくんが参加したのは、日系の中小企業を支援する現地の工業団地「テクノセンター」が実施するインターンシップだ。今春、ゼミの先生に紹介されて自ら応募した。テクノセンターは1980年代後半、コスト高の影響で海外移転を迫られた日系中小製造業数社が中心となって深センに建てた工業団地だ。総合商社などが海外で大規模開発した工業団地とは異なり、各社が協力して費用を分担し、低コストで操業している。
現在、中国に進出した日系企業が、日本の学生を対象にインターン制度を実施するケースが増えている。それを斡旋する専門のコーディネーターも少なくない。少子化が進む中国では、若くて優秀な労働力を確保することが難しくなっているからだ。
一方で、中国の若者を誘致して実習を行なう日本国内の企業も急増中。人材不足に悩む日本企業は、今や日本と中国の双方から、両国の若者を獲得しようと躍起になっている。
しかし、このテクノセンターで行なわれているインターンシップは、人材獲得ばかりを目的とした従来の制度とは大きく異なる。ここでは、優秀な学生の囲い込みや自社のピーアールが一切ないのだ。受け入れ条件もなく、日本各地の大学から個人単位で自由に参加できる。渡航費用は各自持ち。滞在中の食事と寮費はテクノセンターが負担する。