リバース・イノベーションは
もはや新しい企業成長の基盤

 ゴビンダラジャンは途上国からリバースすることが企業成長の基盤となる、と主張します。そして、3つのメッセージを掲げます。

1. 途上国にはとてつもなく大きなチャンスがある。
2. 途上国は(富裕国とは)異なる。些細な違いではなく、大きな違いである。
3. イノベーションを行う企業が勝ち、輸出する企業は負ける。(32ページ)

 発想の転換とは言い古された表現ですが、まったくニーズが異なる新興国市場へ進出し、そこで得た技術と商品を先進国へ持っていく、という手法は、企業成長を考えるうえで参考になります。ゴビンダラジャンは、読者が具体的にリバース・イノベーションを考察する際に必要なキーワードを挙げます。

 富裕国と途上国の間にある五つのニーズのギャップ、すなわち、性能、インフラ、持続可能性、規制、そして好みのギャップ(隔たり)である。(24ページ)

 シュンペーターは『経済発展の理論』(第1版、1912、岩波文庫版は第2版)でイノベーションを5つに分類しました。すなわち、

1. 新しい生産物
2. 新しい生産方法
3. 新しい組織
4. 新しい販売市場
5. 新しい買いつけ先

 ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』(ダイヤモンド社、初版、1985)で、イノベーションを体系化するための7つの機会についてこう書きました。

第一の機会 予期せぬ成功と失敗を利用する
第二の機会 ギャップを探す(1. 業績ギャップ、2. 認識ギャップ、3. 価値観ギャップ、4. プロセス・ギャップ)
第三の機会 ニーズを見つける(1. プロセス上のニーズ、2. 労働力上のニーズ、3. 知識上のニーズ)
第四の機会 産業構造の変化を知る
第五の機会 人口構造の変化に着目する
第六の機会 認識の変化をとらえる
第七の機会 新しい知識を活用する

『リバース・イノベーション』のゴビンダラジャンは、ドラッカーの「7つの機会」から「第二の機会 ギャップを探す」を敷衍して「富裕国と途上国の間にある五つのニーズのギャップ」を整理したように思えます。

 順番に著者がそれぞれのギャップの解説に記した言葉を少しだけ引いてみましょう。着眼点がわかるはずです。