そこで皆を奮い立たせるビジョンが必要になる。それが当時であれば、皆が思い浮かべ、涙した「伊勢湾台風の悲劇」であるわけだ。あの悲劇を繰り返さないために、この事業はどうしても必要なのだと説いた。

 このビジョンを掲げたのは、当時、気象庁測器課補佐官、測候所設置の責任者だった藤原寛人氏、のちの小説家、新田次郎だった。伊勢湾台風の時に、気象庁は十分な時間的余裕をもって警報を発することが出来なかった。忸怩たる思いだったと思う。自分たちの無力さを思い知ったのかもしれない。そこで、「伊勢湾台風の悲劇を繰り返してはならない」と訴えた。

 現在であれば、そのイメージは、3.11で東北を襲った、あの津波だろう。全国の人間が、繰り返されるニュース映像に涙した。もし「あの悲劇を繰り返してはならない」と鼓舞されれば、多くの人が奮い立ち、どんなに困難な作業にも立ち向かっていけるのではないだろうか。

 そのイメージは、何万の言葉を費やすよりも効果的で、それこそ一瞬にしてその意識を共有することができる。映像というのは、それほどまでに強力な力を持っている。ビジョンとは、そんなふうに、一発で相手の脳裏に1枚の絵、あるいはあるストーリーを届け、共有できる。そうした表現になっていることが必要なのだ。

「プロジェクトX」の中には、こうした表現が頻繁に見られる。たとえば本田技研のCVCCエンジンの開発秘話。これは世界初の低公害型エンジンで、当時アメリカが制定したマスキー法という大変厳しい排ガス規制に世界で最初にクリアしたエンジンだ。

 その開発も困難を極めたが、最初にリーダーが言った言葉は、「子どもたちに青い空を残そう」だった。それで皆が、「そうだ!」となって、一丸となって頑張った。ドラマには、それが現実のものであっても、心をつかむ表現があるものなのだ。

 言葉の力は大切だ。もっとも、ビジョンを発するそうした強いメッセージがあっても、それだけで最後まで皆が頑張れるわけではない。では、どうすべきなのか。次回、紹介したいと思う。

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筆者である野田稔さんと伊藤真さんが塾長を務める
人材の再教育を通じて雇用の流動を高め、社会全体での終身雇用を目指す
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