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2030年のビジネスモデル

不器用だけど一生懸命――沖縄の焼き肉店、キングコングが実践する、ゆがんだ社会や組織を治すヒント

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第19回】 2014年6月12日
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漁船コング丸で海に繰り出す

 翌朝、砂川さん、仲地さんと共に、コング丸で漁へ出た。コング丸とはNSPが所有する船の名前であるが、実はこれもまた、鬱やひきこもりなどの人たちの再生手段として、漁船で海に繰り出すという、今まで聞いたことのない、斬新かつ危険とさえいえる挑戦である。

 ある発達障がいの男性は、失業しており、自暴自棄になっていた。この方は、コング丸での漁を通じて、釣った魚を家に持って帰るようになった。すると今まで、家に帰っても会話なんてなかったのに、自分で釣ってきた魚によって食卓にドラマが生まれた。家族が喜んでくれて、感謝の言葉が返ってくるようになった。この男性はコング丸で漁をするようになってから、自己効力感や自尊心などの生活の質に関わる指標(QOL)が急激な回復を見せ、主治医が驚いたという。

 漁が回復と動機づけの場になったのである。そこには、男や父親としての本質を回復させる何かがあったのだ。「漁師(ウミンチュ)の仕事には、海で漁をする他にも、網や仕掛けを作ったり、船体やエンジンを修繕したり、船を掃除したり、魚をさばいて調理したりなど、幅広い内容が含まれている。だからだろうか、漁師は、自分で何でもやる自信に満ちている人が多い」と仲地さんは語る。

 コング丸は、学校もどうしてよいのか分からずに手を焼く不登校の少年も乗せたことがある。少年の姿は必ずしも本人が求めているものではなかった。本人もしたくてしているわけではなく、集団形成上そういうポジションになっているから、虚勢を張り続けているだけだった。漁に出ることによって、集団の中で着ていた鎧を脱ぎ、自分自身に素直になることができた。

 「現代社会は、人と深く関わるということが少なくなっている。また複雑な人間関係の中で、人にどう見られるかを意識し、人からの評価により一喜一憂していて、自分自身(アイデンティティー)が不安定になっている。

 そういう時代において、社会の喧騒から離れ、海に繰り出す意義は大きい。わずか15分岸から離れるだけで、そこは別世界。陸では、自分はどう見られているかということに意識が向いていたが、海では、風や波、雲の動きからその日の海の機嫌を推測する。

 釣り糸を垂らしてからは、海中の様子をイメージしながらひたすら魚のあたりを待つ。日の出、日の入りに自分の生活を重ね、潮の満ち引きに人生を重ねる。海には等身大の自分を教えてくれる機能が備わっている。背伸びしなくてもいい」と仲地さんは話す。

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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