ウクライナ情勢:
メンツを守りながら事態収拾を図り始めたプーチン露大統領

 ウクライナ情勢に関しては、次第に本連載で指摘した通りの展開になってきた。

 『クリミア自治共和国が住民投票でロシア編入を決めたら、ロシアは「住民が民主的に決めた」ことの正当性を主張し、欧米の経済制裁にギリギリまで耐えるだろう。そして、クリミア半島のロシア編入、ウクライナ分裂が既成事実化すれば、20年間のユーラシアの覇権争いの中では小さな反撃でしかなくても、ロシアの「強いイメージ」をなんとか残せるかもしれない。それは、ロシアにとってほぼ負け戦のこの争いを、なんとかメンツを保つ形で終息させる、唯一の道となるかもしれない』(第77回・P.7を参照のこと)。

 ウラジーミル・プーチン露大統領は、まさにこの線で事態収拾を図り始めているといえる。ロシアは、ウクライナ東部の親ロシア派が求める「独立」のための住民投票を認めなかった。一方で、5月25日に行われたウクライナ大統領選で、親欧米派のペトロ・ポロシェンコ元外相が圧勝した結果を承認したのだ。

 そして、プーチン大統領は、アンゲラ・メルケル独首相、ディビッド・キャメロン英首相、フランソワ・オランド仏大統領など、欧米の首脳との対話を始めた。また、ウクライナとの国境周辺で軍事演習を続けてきた数万人規模のロシア軍部隊に対して、所属基地への引き揚げを命じた。大統領は、クリミア半島のロシア編入既成事実化だけは、なんとか守りながら、欧米との関係正常化を図り始めたのだ。

 やはり、90年代以降の長期的観点から見れば、ランドパワー・ロシアはシーパワー・英米によって完全に封じ込められていたことが明らかだったといえる。冷戦終結による東欧、中央アジアの民主化で、ロシアは遥かベルリンまで続いていた旧ソ連時代の「衛星国」を喪失してしまったのだ。いまや東欧は民主主義政権の下で、「EUの工場」と呼ばれる経済発展を遂げているのである。ウクライナ分裂は、ロシアの勢力圏縮小という大きな流れの中で、かろうじて繰り出したカウンターパンチ程度でしかなかったということだ。

 また、欧米による経済制裁が、技術力がなく、石油・天然ガスを単純に輸出するだけの経済を直撃しつつあり、政府高官などのロンドンでの蓄財への影響も、深刻になりつつあったのだろう(第77回・P.5を参照のこと)。