なぜソニーはiPodをつくれなかったか?
技術者集団には難しかったアップル的発想
「この程度の音質では怖くない」
ソニーのオーディオ開発において、責任ある立場の方がiPodを聞いて発した言葉だ。
この言葉ほど「技術で勝って、事業で負ける」 由縁を端的に言い表している言葉はないのではないか。iPodの価値は音質にはない。「いつでも、どこでも、好きな音楽をワンクリックでダウンロードできる。そして、自分だけのジュークボックスを手軽につくれる」こんな体験に価値がある。
アップルはiPodというモノではなく、体験という価値を製造している。アップルはモノをつくるが「モノづくり企業」ではない。「価値づくり企業」だ。
「なぜ、ソニーがiPodをつくれなかったのか?」
日本人として、日本企業であるソニーに世界的ヒット商品をつくって欲しかった。ウォークマンを創り出したソニーであれば、世の中をワクワクさせる製品を開発できたはずだ。我々のソニーにこそ、iPodを出して欲しかった。そう思う日本人は多かったはずだ。
負け惜しみではないが、iPodであればソニーにもつくれたはずだ。しかし、iPod+iTunesのプラットーフォームを創り出すことは難しかっただろう。ソニーを庇うわけではないが、プラットフォーム構築のようなシステム思考は、モノづくりだけを行ってきた技術者集団には、発想しにくかっただろう。
ジョブスのように、芸術的才覚があり、技術への造詣も深く、かつ経営者として事業全体を俯瞰的に眺める立場にいた人物だからこそ、iPod+iTunesは発想し得たのだ。しかしここで留意したいのは、ジョブスだからできた、ジョブスがいないからできない、ということではない。プラットフォーム事業を発想し得るような人材は、才能だけではなく環境次第で育てることができるのだ。
では、どうすればソニーはアップルになれるのか。筆者が提唱する「Think Forest」思考をベースに、そのヒントを話していきたい。
日本人はゴールや目的から考えることが苦手と言われる。どちらかと言えば、事実を積み上げて結論を導き出す思考が強い。全体から考えず、部分ばかりに意識が向いてしまう。