この事件をきっかけに、薬物の相互作用による事故を未然に防ぐために、一部の大学病院や薬局で、手帳に患者が服用している医薬品を書き込んで、情報提供が行われるようになった。

 この流れに拍車をかけたのが、1995年に起きた阪神淡路大震災だ。

 被災地では、震災の混乱でかかりつけの病院や診療所の機能が麻痺するなか、他県から支援に入った医療者が患者にふだん飲んでいる薬を聞いても、返ってくるのは「血圧の薬」「白い錠剤」「毎朝、1錠ずつ飲んでいた」といったあいまいな答えだった。

「自分が飲んでいる薬の名称を正確に言える患者は少ない」という実態が明らかになり、災害など万一のことが起きたときのためにも、ふだんから患者の服用履歴を管理しておく必要性が痛感されるようになった。

 そして、その情報提供のアイテムとして、現在の「おくすり手帳」を作りあげたのが埼玉県の朝霞地区薬剤師会だ。埼玉県女性薬剤師会の理事で、「おくすり手帳」に詳しい抜井留理子さんは、誕生のきっかけを次のように話す。

「朝霞地区薬剤師会は、1995~96年度の厚生省(当時)の医薬分業のモデル地区に指定されたのですが、この事業の一環として、薬の相互作用による健康被害から患者を守るために、一部の病院や薬局で使われていた手帳を普及させようという活動が始まったのです」

小学校低学年でも読めるように
手帳の名称は平仮名の「くすり」

「おくすり手帳」の作成にあたって、薬剤師たちが重要視したのは「つねに携帯してもらえるものであること」「手帳は1冊にまとめて、情報は更新して最新のものが分かるように」というものだった。

 そこで、朝霞地区薬剤師会では、地域の患者にも協力してもらいながら、「サイズはどの大きさが適当か」「どのような情報が必要か」などをリサーチしていった。