ケンジの様子を見ていた末席が笑いながら言う。

「金利をマイナスにする。そうですね。そして、その世界では、お金を借りたら、利息を払うどころか、お金が余分にもらえるわけです」

 この人たち、ドラえもんの「もしもボックス」かなんかの見過ぎなんじゃないか。ケンジはすでに麹町経済研究所自体に疑いを持ち始めている。

 悪ノリする意図はない嶋野が、素で末席の言に乗っかる。

「まあ、二乗すればマイナスになる数字もあるくらいだから、それにくらべればそんなに不思議でもない」

 複素数の話を持ちだして、よけい話がややこしくなってしまっているな。これまでのやりとりを楽しみながらも、そろそろケンジくんからの疑惑の目も気になってきていた末席は、タネ明かしをはじめる。

「じつは、金利には『名目金利』*6と『実質金利』*7とがあるんですよ。名目金利はその名のとおり、いつもみんなが使っているそのまんまのレートです。実質金利は、インフレ率(一般物価)の影響を除いたものです」

*6:名目金利は、一般的にみんなが政策金利として使っているもの
*7:実質金利は、名目金利から物価水準の変動を除いたもの

「名目金利には、一般物価(インフレ率)の影響が入っちゃってる、ともいえる」

「通常、政策金利で言及されるのは、名目金利の水準です。これはマイナスにはなれない*8

*8:もしマイナス金利にできるとすれば、おカネを借りれば逆に利子をもらえることになってしまう

「ただ、実際の経済活動は、実質金利のほうに大きく影響を受ける、と言われています」

「実質金利は、インフレ率の影響を除いたものですね。これを数式で書くと[実質金利]=[名目金利]-[インフレ率] です」

「この実質金利のほうは、じつはマイナスにだってできるんです。さて、どうすればいいでしょうか?」

「金融当局が、名目金利をゼロ近くとかの低い水準にしておいて、インフレ率のほうをすこーし上げてあげればいいんですね!*9

*9:名目金利が0近くで、物価水準がそれ以上のプラスの数字であれば、実質金利は0以下になる

「これまで、『インフレ率を上げる』という方法論、アレルギーがあったんです。それにも理由があって、歴史上、中央銀行の大きな仕事のひとつが『インフレの抑制』だったからです。往時はそれ、たいへん手を焼いたようで、中央銀行からしたらもう『インフレ=天敵』という勢いだったんだと思います。実際、そう思ってしまっても無理もない経緯もありましたし*10

*10:たとえば、1955年から1990年まで消費者物価の上昇幅は約5倍になったという計算もある。cf.三和総合研究所編 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社

「ただ、その軛(くびき)から解き放たれて、インフレ率アップ、ちょっとやってみてもいいんじゃないか、という一派が出てきたんですね*11

*11:これが、積極的な金融政策を支持する立場

「彼らは、それまで主流だった『名目金利をゼロまで下げても無理ならどうしようもない』という意見に対して、実質金利を下げる施策を打ったほうがいい、と主張したわけですね」

「名目金利がゼロ近辺になっても、金融緩和を続ける。あるいは一定水準の物価になるまで絶対にやると強く宣言して実行する。そうすると、ジワジワと一般物価が上がってきたりして*12、名目金利がたとえ変わらなくても実質金利の低下を感じ取った企業家や個人がおカネを借りて使うようになるかもしれない」

*12:財の総量に対して、マネーサプライが相対的に大きくなっている状態。貨幣数量理論などを参照

「それが、いわゆるQE(量的緩和による金融拡張)の基本的な考え方なんですね!」

 ケンジはなぜか、治療薬が発見されていない感染症の防止に、その病原でもある血清(ワクチン)を身体に取り入れるという方法論があることを思い出していた。

 

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