ひとつの組織に所属する「組織人間」から
複数のプロジェクトで必要とされる「事業人」の時代へ
フリーエージェントとは「インターネットを使って、自宅でひとりで働き、組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに、独立していると同時に社会とつながっているビジネスを築き上げた」人々のことである。それは大別すると、フリーランス、臨時社員、そしてミニ起業家から構成される。
驚異なのは、『フリーエージェント社会の到来』が初めて刊行された2001年時点で、米国社会ではすでに、働くほぼ4人に1人が、なんらかの意味でフリーエージェントであるという事実だ。著者ダニエル・ピンクは、家族とともに1年をかけて全米を旅し、大勢のフリーエージェンとじかに会い、生活や仕事、悩みや希望をつぶさに聞いて回った。そんなフリーエージェントの生の証言の数々が、ふんだんに紹介されている。
それらのフリーエージェントに共通するのは、インターネットや地域コミュニティーを活用した、ヨコのネットワークの存在である。ヨコのつながりの存在こそ、フリーエージェントがプロジェクトを成し遂げるための根幹であり、セーフティーネットである。フリーエージェントは、組織に従属はしていないが、同時に社会から孤立した個人でもない。
フリーエージェントの世界では、遊びと仕事の境界がいい意味で曖昧である。むしろその渾然とした状態こそが「クール・フュージョン(カッコいい融合)」という考え方が、フリーエ―ジェントには根を下ろしている。
かつて、仕事をする上での前提は、すべて「組織」にあった。組織に人が集まり、集まった人々のみが知恵をしぼり、粘り強く努力を積み重ね、やっとの思いで何かを成し遂げる。それが「仕事をする」ということだった。
しかし、インターネットが普及し、組織の外部とも格段につながりやすくなり、同時にグローバル化が競争のスピードを加速させるようになると、仕事の前提は「組織」から「プロジェクト(事業)」へ移っていく。仕事はまず組織ありきでなく、顧客や取引先から「プロジェクト」がダイレクトに舞い降りてくる。もしくは経営からトップダウンで、リーダーに対し「プロジェクト」のミッションが伝えられ、一定期間内での遂行が求められる。
にもかかわらず、組織のタテ社会の人間関係に縛られているならば、プロジェクトの期限内での実現は到底不可能である。必要なのは、組織のしがらみにとらわれることなく、適材適所で縦横無尽に活躍できるフリーエージェントの存在だ。重要なプロジェクトの多くは、既存組織のメンバーだけから構成されるのではなく、組織を超えて集まったフリーエージェントたちの手を借りることによってのみ、成し遂げられるのだ。
その事実は、働く個人にとってすれば、仕事上の安定を手にするために組織にしがみつき続ける時代が、確実に終焉を迎えつつあることを意味する。少なくともひとつの組織に忍耐強くこだわり続ける生き方や働き方は、これからは確実に少数派となる。むしろ複数のプロジェクトから常時必要とされ、臨機応変に対応できるフリーエージェントのプロジェクト・マン(事業人)として輝くことこそ、いまや成功とやり甲斐を得るための、最も有効な手立てとなっている。
ビジネスは、組織一辺倒の世界から、プロジェクトの世界へと大きく重心を変えつつある。それが「フリーエージェント社会の到来」の背景にある。