たとえば医師から余命宣告されると、突然身に迫ってくるのが相続対策です。残された時間を考えると、もう後回しにはできません。実際にそういった状況で、税理士に初めて相談に来る人も多いそうです。事故や突然死で亡くなる場合と比較すると、それなりに効果的な対策が考えられるからです。書籍『ストーリーでわかる!今までで一番やさしい相続の本 ――得する節税と相続トラブル回避法』を監修し、相続税の専門家である税理士法人チェスターの荒巻さんに、余命わずかの宣告を受けてからでもできる効果的なっ相続対策について解説してもらいます。

遺産が多くても少なくても、遺言書1つでトラブル解決ができる

 今を元気に暮らしていると、いずれ相続のときが来るとはわかっていても、まだ現実味に欠けるものです。
 いつまでも健康でいられるのが一番ですが、ある時、余命宣告されて自分の寿命を知ってしまったら、その時から相続はぐっと身近なものになってきます。
そうなってから相続対策を始めても遅すぎるということはありません。たとえ余命半年しか残されていないとしても、その間にできることはあります。
 ひとつは「遺言書の作成」、もうひとつは「生前対策」です。
 実際、余命宣告を受けてから慌てて遺言書を作る人も結構います。

 相続税は、納税が必要な人もいれば、そうでない人もいますが、相続自体はお金持ちに限らずほとんどの人が通る道といえます。
「家(ウチ)には分けるほどの財産もないから相続とは無縁」というセリフをよく耳にしますが、少しでも財産(借金を含む)があれば何かしらの方法で分けなければならないのが相続なのです。分けるほどの財産がないからこそ苦労することもあります。

 そのため、遺族たちが遺産分割で悩まないように、遺族間のトラブルを回避するためにも遺言を残すのは大切なことだと思います。第2回目で取り上げた法定相続人ではない人に財産を譲りたい場合も遺言書を作っておけば安心です。

「公正証書遺言」なら死の間際でも作成できる

 病状が悪化するにつれ、体力や意思能力は低下してきます。遺言書は意識がはっきりしているうちに作成することをおすすめしますが、遺言書にはいつまでに作成しなければならないといった期限の規定はないので、極端に言えば亡くなる直前に作ることも不可能ではありません。

 ただ、体力が衰えれば自力でペンを持ち遺言を書くことは難しいでしょう。
 そういう状態になってしまっても作成できる遺言書があり、それを公正証書遺言といいます。
 自筆で書く必要がなく、遺言者に代わって公証人が作成するのが特徴です。
寝たきりで動けない状態であれば、公証人に自宅や病室に出張をお願いすることもできます。
 様態が急変し、自分で書くことも喋ることもできなくなるかもしれません。病室のベッドに横たわり、公証人の言葉にゆっくり頷きながら、安らかな眠りにつく…。こうして意思表示さえできれば公証人によってきちんと作成され、正式な遺言書として認められます。

 また遺言書は、遺言者の意思のもとに作るものですから、認知症などの症状があれば作成は難しくなります。
 医師から認知症であると診断された人が、相続対策で遺言書の作成や不動産の売買、生命保険への加入、子どもや孫への贈与などを行うと、後日無効とされてしまうケースもあります。