同性愛遺伝子の「スイッチ」を押すものは何なのか?
かつてディーン・ヘイマーとそのチームは、ゲイの男性の母親に注目し、X染色体に不活発化した場所があるかどうかを調べた。そうした変化はたいてい不規則なものだが、ヘイマーたちは、明らかなパターンを見出した。それは、ストレートの男性の母親のX染色体には見られないものだった。
このことはX染色体上のいくつかの遺伝子がエピジェネティックに変更されたことを示唆している。だが、今のところ、どの遺伝子が変えられたのかはわかっていない。単純な酵母菌も、エピジェネティックな信号によってオス型・メス型の性転換が起きるので、このしくみはほとんどの動物に共通するものであるらしい。
また、殺菌剤のビンクロゾリンなどの環境ホルモンが体に入ると、性的な関心の方向性が違ってくる――少なくともラットの場合は。マイケル・スキナーらは、曾祖父母がビンクロゾリン(男性ホルモンのアンドロゲンに影響を及ぼす)を浴びたオスのラットの性的魅力について調べた。祖父母、父母、自身と3世代にわたって化学物質を浴びなかったにもかかわらず、これらのオスはメスから見て性的魅力が乏しかったらしく、メスとつがうことが少なかった。
このエピジェネティックな働きは、アフターシェーブ・ローションの匂いがなかなか消えなくて女性に嫌な顔をされるのに近い。別の研究で、BPA(ビスフェノールA)を投与された母親から生まれたラットのオスは、性的行動がわずかに弱まったが、メスは性的に活発になった。
まだ立証されてはいないが、環境のエピジェネティックな変化――ストレス、タバコ、食品、さらにはペットボトル入りの高価なミネラルウォーターを飲むことまで――が、わたしたちの子どもや孫の性的行動に影響する可能性がある。男性性と女性性は、おおかた子宮内で決まり、思春期以後の男性の性的関心や嗜好を変えるのは非常に難しい。
(続く)
※本連載は、『双子の遺伝子』の一部を抜粋し、編集して構成しています。
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