年を重ねるごとに口が渇いていく、さらに口臭や滑舌の悪さが気になる――。そんな症状を、“単なる口の渇き”と侮ってはいけない。なぜなら、これらは唾液の分泌量が減ることで口が乾燥する「ドライマウス」という疾患の典型的な症状だからだ。しかもドライマウスは、“口の老化”とも言われている。アンチエイジングの観点からも注意が必要だ。では、ドライマウスにはどう対処すればよいのか。「ドライマウス外来」を誕生させたドライマウス研究会代表であり、「口のアンチエイジング」の第一人者としても知られる鶴見大学歯学部の斎藤一郎教授に話を聞いた。(聞き手/医療ジャーナリスト 渡邉芳裕)
ドライマウス患者数は3000万人!?
口臭、滑舌の悪さ、舌の痛みを放置するな!
――「ドライマウス」とはどんな症状をいうのでしょうか?
1954年東京生まれ。東京医科歯科大学助教授を経て、鶴見大学歯学部教授。専門は唾液腺の機能や病態の形成機序ならびに再生機構。日本のいくつかの歯学部、医学部や米国(スクリプス研究所)で口腔乾燥症を呈するシェーグレン症候群の研究に長年従事し、日本シェーグレン症候群学会賞(2011年)等を受賞。現在、ドライマウス研究会代表、日本抗加齢医学会副理事長も務める。
ドライマウスとは、唾液の減少により口が渇く症状で、多くは口の不快感を伴います。
誰かと話すときに自身の口臭が気になったり、言葉が綺麗に発音できず滑舌が悪くなったりするのは、ドライマウスが原因でしょう。口臭は細菌の死骸の腐敗臭です。唾液の量が減ることで菌の増殖を促し、口臭につながります。また、唾液は潤滑油でもあり、唾液が枯渇することで舌をかんでしまうのです。
ほとんどの方は飲みこんでしまうので自覚がありませんが、実は1日1.5リットルもの唾液が出ています。しかも唾液はタダの水ではありません。ウイルスや細菌を防ぐ殺菌効果があり、様々な体の健康を維持するのに重要な成分が含まれています。
外から帰ってきた時「口をゆすぎなさい」と言われるのは、外出先で口からウイルスなどに感染することが多いからです。ただ、十分な唾液が出ていれば、唾液の自浄作用、唾液中に含まれる抗菌作用で感染しにくくなります。同じ部屋にいるのに、風邪をひく人とひかない人がいるのは免疫力の差であり、また唾液量の差でも説明することができます。
では、ドライマウスを放置すればどうなるのか。唾液が減少し、口腔内の自浄作用が不良となることで虫歯や歯周病のリスクは高くなります。人によっては唾液が枯渇することで舌がこすれて痛くなる方もいらっしゃいます。高齢者にとっては肺炎のリスクが上がる致命的な要因の1つですので、注意が必要です。