日中関係が打開されないまま、推移している。沖縄県に駐在する自衛隊の某高官の表現を借りれば、一種の緊張の「高原状態」を維持している。高原は海抜が高い。ここでは緊張状態が高い水準を維持していることを指す。しかし、尖った峯が林立する状態ではない。高原の上には平らかな平野が広がっている。ここでは、緊張水準が高いが、その状態での平和状態が保たれていることを言う。その「高原状態」という表現は実に言い得て妙なりと思う。
しかし、それで安心してはいけない。その日中関係を民間レベルで一歩、前進方向へ推すことはできないのか。それは日中関係に関心をもつ多くの人にとっては喫緊の課題であった。数ヵ月前に、交通大学法学院の院長、季衛東教授から相談を持ちかけられた。上海で上海自由貿易区と在日新華僑つまり在日中国人をキーワードにして、フォーラムを開催したい。こういう形で中国と日本とのパイプを少しでも太くしよう、と。私は即座に協力を約束した。その後、上海に一時帰国したのを利用して、季院長と打ち合わせを重ねてきた。
日中関係改善に動く新華僑
実は、季院長は日本留学を経て、神戸大学で長年、教鞭もとっていた。2008年に中国に帰り、交通大学法学院に就職したのだ。その意味では、彼は新華僑の一員でもあったし、帰国したあとは、中国流で言えば、「海帰」派の一員、つまり帰国者族の一員となった。だから、日中関係を何とかできないのか、という気持ちが強い。一方、新華僑の一員でもあったから、上海市華僑連合会のメンバーにもなれた。海外の華僑とのパイプを保ち、活用することは上海市華僑連合会の役目だから、季院長の考えは上海市華僑連合会からも支持された。
こうして交通大学と上海市華僑連合会の支持のもとで、9月下旬、上海交通大学華僑聯合会と在日華僑団体との共同開催によって、上海で中日華僑合作フォーラムが開かれた。今回のフォーラムの特色は、「新華僑」重視を前面に出し、帰国した新華僑と在日新華僑との共同作戦で、「国境や業種を超えた効果を生むべく、著名な日中の専門家・学者・企業家を招いてテーマに関する討議を行い、海外華僑のために技術移転および創業の交流プラットフォームを築き、国際的な対話を通じて日中両国間の経済法律協力を促進する」という目標を目指すところにある。
こうしたイベントと活動を通して、新華僑という接着剤を通して中国と日本との関係をより緊密なものにしようとするのは、主催者と参加者の共通の目的でもある。