医療費について当面政治上の問題となっているのは、後期高齢者医療問題(特例で1割となっている70~74歳の医療費自己負担を、2割に戻す問題)だ。これは、確かに重要な問題だ。しかし、言うまでもなく、これは医療費の問題の一部にすぎない。医療費の問題は、もっと広範だ。すでに巨額であるし、人口高齢化に伴って今後も増えることが予想される。

経済全体の問題として捉える必要

 社会保障に関する議論の多くは、社会保障という枠内に限定された議論だ。しかし、介護についての議論でも強調したように、社会保障の問題は、経済全体の問題とのかかわりで捉える必要がある。

 費用負担問題が財政全体の問題にかかわっていることは言うまでもない。医療や介護に必要な労働力を確保できるか否かは、労働市場全体を見ないと判断できない。

 介護の場合にも、在宅介護と女性の労働参加、相続税制との関係、金融制度との関係(リバースモーゲッジ)、移民政策との関連などがあった。医療は介護より規模が大きいので、経済全体とのかかわりは、より重要だ。

 介護と同じく医療も、産業としては特殊な性質を持っている。生活の低下を阻止するのに必要である。医療の場合には、適切な処置をしなければ生命にかかわる。しかし、これに多額の出費をしたところで、生活を積極的に快適にしたり、将来の生産性向上に直接に寄与するわけではない。したがって、その規模の拡大が望ましいか否かの判断は難しい。

 必要なサービスを手厚く行なうという意味では重要だ。事実、医療も介護もGDP増大に寄与する。しかし、費用負担が増大するという意味では、費用を抑制することが必要だ。経済全体の観点から見ても、供給面の制約が強くなってくると、抑制が必要。労働力制約の点もそうだ。

 また、医療も介護も、公的な関与の度合いが高い。費用のうちかなりの部分が公費で負担されている。したがって、医療や介護を純粋に民間の活動にゆだねるのはほぼ不可能だ。

 すでにその規模がGDPの1割を超えるものとなっており、今後も人口高齢化によって規模が拡大することを考えると、日本において「小さな政府」という選択はもはやありえないものになっていると考えるべきだろう。