チャンドラーの組織戦略と、
ナポレオンの軍団制度がなぜ似ているか

 世界的な名著『組織は戦略に従う』の作者であり、歴史学者のアルフレッド・デュポン・チャンドラーは、企業が膨張をする過程で単一の指揮系統ではコントロールが利かなくなり、事業部制が発生したことを企業史の分析から解明し世界に衝撃を与えました。

 化学メーカーとして有数の歴史を誇る米デュポン社は、第一次世界大戦の特需で従業員が何倍にも急増する好景気を体験しますが、戦争が終結したときのことに思い当たり、生産設備の有効活用を狙って、事業多角化を目指します。

 ところが、過去体験したことのない新たな製品分野への進出で、当初名門デュポンは大きな痛手を蒙ります。事業多角化をはじめて数年は、ライバル企業が好調な年でも大幅な赤字を出し続けてしまったのです。これは、中央部がすべての事業の計画を管理できなかったことが理由でした。

 フランス革命で「人間の自由と平等」が歴史上初めて民衆により掲げられましたが、王族と貴族の身分制度を守りたい周辺諸国は、いっせいにフランスに宣戦布告をします。

 そのため、フランス軍は一国ではなく多数の国と同時に戦闘を行う必要に迫られ、個別に独立作戦を展開できる組織「師団」を作り上げました。これは、補給部隊なども独自に持っていることで、個別の作戦にその戦闘単位が最適の作戦を立案できるようにするためです。ナポレオンは師団制度をさらに改善し、「軍団制度」を生み出して欧州を圧倒します。

 歴史研究家のチャンドラーと、フランスの皇帝になったナポレオンが共に気づいていたであろうことは「一人の人間(一つの組織)は複数のことに精密に集中できない」という真理です。目標が複数あれば、それを単一の組織で賄うのではなく、組織を正しく分割して目の前の役割に集中できる状態にすべきなのです。ナポレオンの軍団制度が、多数の敵軍を相手にした遠征攻撃力を格段に高めたことは、彼が制覇した諸国の数を見れば明らかでしょう。