同じ人間でも、指導する上司で
成果とエネルギーは雲泥の差になる

 最近は言及されることが少なくなった「人の可能性」ですが、上司がなかなか認めたがらない点として、同じ部下でも指導する上司によってその人物が発揮する才能やエネルギーは格段に違うという現実があります。

 フランス革命が「自らの自由と平等のため」に全力で戦う国民軍を生み出したことで、王族に雇われた傭兵軍を圧倒したことはすでに述べましたが、元マッキンゼー社のコンサルタントであるトム・ピーターズが書いた『エクセレント・カンパニー』でも、人間の持つ熱意がどれほど企業の業績を変えるか、いくつもの事例を引き合いに出して分析をしています。

 また、指導する部下だけではなく私たち自身の仕事への姿勢、周囲の同僚とどのような関係を築くかでも、仕事の成果は劇的に変わります。連載第5回の記事でも解説しましたが、人はえてして相手の弱点、欠点に目を向けてしまいがちです。

 ところが、誰もが万能のスーパーマンではないこの社会で、人が組織で仕事をする最大の理由は「個人の強みを取り出し、弱みや欠点を無効化する」ことです。弱いところや苦手なところを、組織の誰かに補ってもらうことで、人は自らの強みを発揮することに集中できるからです。

 ところが人間の感情的な部分は、どうしても相手の欠点に注意を集中し、相手の間違いや弱みを非難する行動を取らせがちです。さらに言えば、人の能力や付加価値を低く見積もり「この程度しかできない」という見切りを前提にして相手を扱いがちになります。

 結果として相手の弱みや欠点に(私たち自身が)着目することで関係性を破壊し、相手の潜在能力を低く見ることで、相手から強みと意欲を引き出すことができないのです。

 優れた組織戦略や教育の戦略は、卑屈な人間感情とは違う角度での行動様式を生み出しており、優れた上司が部下から予想以上の能力を発揮させるように、人間の基本的弱点を飛び越えて成果を生み出しているのです。

 逆に言えば、私たちのほとんどは他人の能力を常に低く見積もっており、自分が下した低い見積もりが、結局は私たち自身を苦しめることにもなっているのです。