中村氏は被告側の主張に
負けたわけではない
和解勧告の受け入れという裁判結果がもたらす影響について、中村氏は思いの丈を本書で縷々打ち明けたあと、自身が発明した青色LEDについても詳細な説明を加えています。当初、青色LEDの開発を支援してくれた日亜化学工業の創業社長への感謝の気持ちや、先代とは打って変わって非協力的になった二代目社長との確執が赤裸々に綴られていますが、なんといっても圧巻は「第3章 日本の司法制度は腐りきっていた」です。特許訴訟を通じて認識するに至った司法制度への疑義や不満や怒りを、たっぷり紙幅を割いて爆発させているのです。たとえば――、
私は日米両方で同時に裁判を経験した経験から、日本の裁判が真実を追求する機関ではなく、このため真実に基づく判決ができない機関であることを確信しました。だから、日本の裁判の判決や和解勧告では、両者の「落としどころ」を見つけるような適当であいまいな判決となってしまうんです。
これまで述べてきたように、しかもそこには「正義か悪か」の判断もありません。「真実」を追求して「正義」の判決を下すようなシステムにしないと、「正義」の判決を期待して訴訟を起こす日本国民を裏切っていることになるでしょう。このような民主主義の根幹に関わることが日本の司法には欠落しているんです。(241~242ページ)
などと指摘し、日米の司法制度の違いについて詳細な考察を試みたうえで、日本で裁判を起こすことの空しさを訴えています。
じつは中村氏は、高裁が和解勧告を出した後の記者会見で「日本の司法は腐っている」と明言しました。この発言に対して、和解勧告書とは別に、高裁は「見解」を示しました。和解内容は通常「非公開」が原則ですから、司法の対応は異例だったと言っていいでしょう。
中村氏が「裁判で負けた」と言い放ったのは、日亜化学工業の代理人弁護士の主張に負けたということではなく、あくまでも「日本の腐った司法制度に負けた」という意味なのです。