「この人と商売できるなら儲からなくていい」と思わされた魅力
――どんな気持ちでお出かけになったのでしょうか? またノブさんに初めて会った印象は?
社長だった父や周囲の者は「値段の交渉じゃないか?」などと言っていましたが、僕はまったくニュートラルな状態でした。ただノブさんとの初対面は、僕、酔っぱらった状態で行ってしまったんです。というのは、到着した翌日の昼にノブさんとのミーティングが予定されていたのですが、着いた当日、貿易会社の人と一緒にビバリーヒルズのローリーズ(プライムリブで有名なレストラン)で夕食をとり、ワインを2,3本飲んで二人とも酔った勢いで「マツヒサはすぐ近所だから行ってみようか」とアポの前夜に行ってしまったんです。
ちょうどノブさんが入り口のパティオにいらして、「なんだ、来たのか?」と迎え入れてくださって、「飲め、飲め」とお酒を出していただきました。300cc入る竹の徳利5~6本は空けたんじゃないかと思います。その時、「ああ、この人と商売できるなら儲からなくてもいいや」と思ったんです。とにかくビビッときたというか、すごいオーラがありました。もちろん損したら困るけど、「一緒に仕事したいなー」と。
そして翌々日に、ニューヨークのNOBUを見せていただいて、ノブさんから「(日本以外では)ほかの店に流さないと約束できるか? 約束してくれるなら、これからオレの店は全部北雪にするよ」と言われたんです。「約束します、やりましょう!」と即答しました。普通なら、常務の立場では即決してはいけないのかもしれません。でも、僕はその場で握手して帰ってきました。
――この時、ノブさんの店はマツヒサとNOBUニューヨークの2店だけで、世界中に展開することはノブさん自身も考えていなかったはず。即断即決の決め手は何だったのでしょう?
とにかく一緒に仕事がしたい、それだけです。こういう人の店で使ってもらえるなら、酒屋冥利に尽きると思いました。それぐらいすごい力強さ、人間的な魅力があった。ノブさんもよくおっしゃいますが、「何本売れたらいくら儲かる」なんてことは関係なくて、いい仕事をすれば結果は後からついてくるという考え方です。