立候補者は6名、勢力図は「一強多弱」に

 はじめに、現状の選挙戦について簡単にポイントをまとめておこう。

 告示日は今月9日で、立候補者は6名。その内、政治・行政の経験者は前副知事の内堀雅雄氏、元岩手県宮古市長の熊坂義裕氏、前双葉町長の井戸川克隆氏の3氏だ。政策・政局の理解・比較には、基本的にはこの3人を中心に他の候補者にも視野を広げながら、どの候補者が何を主張しているのか見ていけばいいだろう。

 地元紙など各報道機関が事前の特集や情勢調査をしているが、現在の情勢について言われているのは「一強多弱」、つまり、前副知事・内堀雅雄氏が「強」、その他候補者が「弱」という構造だ。例えば、選挙戦序盤の福島民報は「内堀氏序盤優位」と見出しを立てた記事で、「男女・年代別でも、内堀候補は男女差なく全ての年齢層でリードしている」と、河北新報も「内堀氏、大きくリード」として「内堀氏は自民、民主、公明、社民各党の支援と、連合福島、県農政連、県町村会などの推薦を足掛かりに、全県的に幅広い支持を得ている。男女別、地区別、年代別でも6割以上の支持を固めた」と情勢を分析する。

 では、なぜこのような「一強多弱」構図が生まれたのだろうか。まず、県内における支援組織・支持基盤の観点から整理して見てみよう。

 構図の背景に存在するのは、何より、内堀氏陣営の組織力だ。

 詳細は後述するが、内堀氏は、過去2回の選挙で民主・社民両党県連の支援を受けた佐藤雄平知事の後継者だ。それ故、民主・社民が支援している。さらに、自民・公明両党も、選挙前に独自候補の擁立の動きがあったものの、その候補が立候補を辞退し、結果、民主・社民の動きに相乗りする形で内堀氏を支援している。事実上、県内に拠点を置く既成政党のほとんど(維新なども議席を持っている)が内堀氏支持を表明している状況があり、その周囲にいる業界団体・労組などが組織的な選挙運動を行うとともに、県内各地、地域ごとに選挙対策組織が浮動票の取り込みに向けた策を講じている状況がある。

 他方、既成政党の中でも数少ない「内堀氏を支持しない政党」である共産党や、福島県選出の荒井広幸参院議員が代表を務める新党改革は熊坂氏の支援に回っている。先述の情勢分析においても、二番手とされているのは熊坂氏だ。

 熊坂氏は、政党・業界団体等からの支援こそ少ないものの、一定の熱心な支援者がついていることもうかがえる。荒井氏も「はとこ」にあたる縁戚だということで、熱心に応援している。

 一つは、いわゆる「市民運動」系。震災前から長らく、福島県内で脱原発運動を展開する人々が中心にいる団体が支援を表明したり、再生エネルギーを中心とした地域づくりを掲げる団体が会合の場に呼んだり、あるいは、学者出身で政治家・環境運動家、滋賀県知事・日本未来の党代表など務めた嘉田由紀子氏も応援メッセージを出している。雑誌『週刊金曜日』も荒井氏に加え、菅原文太・佐高信で熊坂氏を支援する鼎談記事を掲載している。

 もう一つは、明確に名付けることが難しいが、いわば「地方都市ホワイトカラー層」と呼べるであろう層だ。熊坂氏は宮古市長を3期12年務めた経歴を持つが、出身は福島市だ。出身高校である福島高校OB・OGなどのつながりや、中通り・会津地方の一部の地域企業経営者のネットワークなどが選挙活動を支援している。先の記事の情勢分析によれば、「男性や50代、60代からの支持が比較的目立つ」ともいう。

 その動機は様々であろうが、例えば「このまま相乗り構図で押し切られたら、県民の不満が無いかのようにされてしまう」「中央政界の思惑に左右される選挙で終わらせればならない」といった声も聞かれる。選挙活動の支援組織の中には、いわゆる地元土建業系列の企業関係者も見られ、熊坂氏の支援者が単純に「市民運動・革新派」寄りの層ばかりではないことがうかがえる。

 ただし、副知事とはいえ、表に顔を出すことが少なかった内堀氏以上に、浜通り・会津での知名度は低いと見る人も多い。

 加えて言うならば、インターネット上の動向も興味深い。

 今回の県知事選は、インターネット選挙運動解禁後初のものであり、各候補者はFacebookやTwitterも使っているが、「福島県知事選」などと関連用語で検索すれば熊坂氏の支持者が多いことにも気づくだろう。熊坂氏を支持する旨を書くと「いいね!」や「シェア」がされやすい一方、内堀氏を支持する書き込みに他候補者の支援者から批判的なコメントがついている例も見られる。各候補者のFacebookなどを見に行くと、それぞれどのような志向を持った支持者がついているかわかるだろう。

 この状況を見ながら思い起こすのは、ちょうど1年ほど前にあった都知事選だ。組織票を固める舛添要一氏に対抗する形で細川・小泉連合と宇都宮健児陣営が登場し、市民運動家、文化人などを糾合していった。Facebook、Twitterを見ると、極めて活発な両者への支持運動を展開しているように見え、また舛添支持者などいないかのように見えた。

 しかし、実際に開票してみると、投票率は低く、よりネットを活用し盛んに「草の根」的支持運動がなされた細川・小泉連合よりも、左派政党・組合等を通して一定の組織動員をかけた宇都宮陣営のほうが得票が多く、さらに、細川氏と宇都宮氏の得票数を足しても舛添氏に及ばないという結果になり、「認知的不協和」(想像していた結果と現実がかけ離れているが故に違和感・不快感を持つ。その解消のために現実を正当化する強引な解釈をする)的リアクションも見られた。

 もちろん、無理に両者を重ねあわせるつもりはない。福島県知事選とは様々な前提条件が大きく違い、結果も開票してみないうちは未知数だ。

 ただ、熊坂氏の支持層には、私が都知事選直前に書いたオピニオン記事の中で使った言葉で言えば、「新しいリベラル」層、つまり旧来の組合等を軸に組織型選挙を展開するいわゆる「リベラル」層とは違って、環境や地域への配慮を掲げた理念への感受性の高く、ソーシャルメディア等ではかなり「声が大きい」「政治意識が高い」ように見える層にとっての、受け皿となっている部分はあるだろう。

 そういった「新しいリベラル」や、先に述べたような「大きな変革を望むわけではないがこのままでは不満だ」層の受け皿として、熊坂氏が機能しているのかもしれない。その「皿の大きさ」がどれだけのものなのか、結果は選挙後に明らかになるだろう。

 その他の候補者もそれぞれの方法で選挙運動を展開しているが、支持層が見えづらく、内堀氏・熊坂氏との政策上の明確な違いが見えにくいこともあり、まとまった支援を集めているとは言いがたい。

 例えば、井戸川氏は、「美味しんぼ事件」などで全国的な知名度はあるものの、本来は支持に回りえる脱原発・被曝回避系の団体、「市民運動」系組織等からの支援を十分に受けているわけではない。当初は、支持者の中から熊坂氏と井戸川氏で一本化をという声もあったようだが、実現せぬまま選挙戦になった。

 脱原発・被曝回避団体には、井戸川氏に気を使いつつも熊坂氏支持を明言しているところも多い。例えば、熊坂氏支持を表明する脱原発系の政治団体の一つは、「なぜ井戸川氏ではなく熊坂氏を支持したのか」の理由として「なお、井戸川克隆元双葉町長も立候補表明され、その主張には当会として心より賛同するものですが、井戸川さんには自らのご健康を第一義に考えて頂きたいと考えています」と述べている。

 先の記事の情勢分析によれば「浜通りの一部」に支持者がいる、とのことだが内堀氏・熊坂氏と比較すれば目立った支援の動きが出ているとは言いがたい。県内でも極端な主張をするというイメージを持つ人がいることもあるだろう。