黒田東彦・日本銀行総裁は異次元緩和は順調と言い張り、強気の景気・物価認識を披歴していた。それだけに「無風通過」を予想していた市場にとって追加緩和はまさに電撃的だった。

 黒田総裁はサプライズを演出したが、本来中央銀行が市場を出し抜く必要はない。意表を突くだけでは効果は長続きしない。

 サプライズの余韻がいつまで続くかは中身次第だ。マネタリーベースの年間の増加幅を10兆~20兆円ほど拡大した点に驚きはないが、長期国債の買い入れ残高を30兆円増やし、買い入れる国債の平均残存期間を7年程度から7~10年程度へと延ばした点には驚いた。これでは、財政ファイナンスとの謗(そし)りは免れない。

 さらに、目を引いたのは、これが電撃緩和と同日に、約130兆円の年金資産を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が発表した運用比率の変更と平仄(ひょうそく)が合う点である。

 変更の内容は国内債券を60%から35%に引き下げる一方、国内株式を12%から25%に、外国株式を12%から25%に、外国債券を11%から15%に引き上げるというものである。

 単純計算では、GPIFが市場で売却する約30兆円の国債と、日銀が電撃緩和で増やした長期国債の買い入れ残高30兆円が一致する。これでは、日銀が自らのバランスシートを使い、GPIFを介して間接的にリスク資産を買い増すのと同じであると誤解されても仕方ない。

 もっとも、GPIFは債券を発行して資金調達を行うわけではなく、今回の電撃緩和と関係なくGPIFは内外株式の運用比率を引き上げる予定だった。

 両者を結び付けて過度に「協調」を評価することには違和感もある。GPIFの運用見直しは日銀の異次元緩和(とそれによるデフレ脱却)を前提にしていたが、今回の追加緩和までも前提にしていたわけではない。